二子玉川【首都圏格差シリーズ】憧れの街の意外な現実

「ニコタマ」もしくは「フタコ」の愛称で知られる二子玉川は、行政上の地名としては存在しない。一般的には、東急田園都市線および大井町線の二子玉川駅を中心とした周辺地域の総称である。渋谷駅から発した田園都市線は、この二子玉川駅を過ぎると多摩川の橋梁にかかり、渡った先の二子新地駅は神奈川県になる。世田谷区南西部の、神奈川県との県境に位置するのが二子玉川エリアだ。
現在の二子玉川を一言であらわすなら「高級住宅街」。世田谷区はこの地区を広域生活拠点に指定しており、駅前には昔から玉川高島屋S・C が店舗を構えているし、近年では東急の手がけた巨大複合施設・玉川ライズや、楽天本社(クリムゾンハウス)ある。駅の改札を抜けた瞬間から、ハイソな雰囲気が漂ってくるのがわかるはずだ。これらの清潔感と高級感あふれる商業施設では、ミセス向けファッション誌から抜け出てきたような30代の意識高い系マダムが、これみよがしにブランド品を見せつけながらショッピングを楽しむという、ちょっとした成金趣味的な光景がそこかしこで繰り広げられている。
実際に駅周辺での商業施設は外食や買い物には便利で、それでいて散歩がてらに玉川まで行ける風光明媚でのどかなロケーションは、都会と郊外の利点をあわせ持っており、都心の喧噪を離れた住宅としてうってつけ。セレブ気取りの新興富裕層たちが羨望の眼差しを向けているのが、この二子玉川なのである。
しかし、もともとの二子玉川は、現在のような住宅街ではなかった。

二子玉川の象徴・高島屋

二子玉川【首都圏格差シリーズ】憧れの街の意外な現実

(Image:Shutterstock.com)

 明治40(1907)年に玉川電気鉄道の駅が開通すると、明治42(1909)年には玉川遊園地が開園した。それに続いて大正11(1922)年には玉川第二遊園地が開園し、大正14(1925)年には玉川プールが開場。レジャー施設が集中する庶民の憩いの場となり、二子玉川は行楽地として発展した。昭和の初期には、高台にある瀬田地区に富裕層が邸宅や別荘を構えるようになったというから、ここに高級住宅街としてのルーツを求めることができるかもしれない。戦時中は、時局の悪化にともなって遊園地は閉園されていたが、戦後に遊園地が復活すると、二子玉川にも賑わいが戻ってくる。

 だが、この街の方向性を決定づける要因となったのは、昭和44(1969)年にオープンした玉川高島屋S・C だろう。玉川高島屋S・C は、日本最初の「郊外型デパート」といわれている。従来のデパートは、銀座や新宿のように、繁華街に出店するのが常識とされていた。ところが高島屋は、都心から離れた郊外の二子玉川に店舗を出店したのである。昭和39(1964)年の東京オリンピックを契機として高速道路が整備され、さらに高度経済成長を経て、自家用車が一家に一台ある「マイカー・ブーム」が到来すると、モータリゼーションによって庶民の行動範囲は格段に広がり、郊外の大型商業施
設にも気軽に出掛けるようになったのである。また、成城や田園調布といった近隣の富裕層が顧客となり、この時期から二子玉川のプチセレブ化が始まる。
 二子玉川園はのちに閉園となるが、その跡地の一角にはナムコ・ワンダーエッグが期間限定で開業し、また動物ふれあい型テーマパーク「いぬたま・ねこたま」も開業して「行楽地としてのニコタマ」を維持してきたが、現在ではどちらも閉園。庶民の娯楽が多様化した影響か、あるいは景気の悪化が影響したのかはわからないが、「行楽地としてのニコタマ」は姿を消してしまった。そして、その跡地に二子玉川ライズが開発されて現在の町並みが形成されることになる。

最大の悩みは通勤地獄

二子玉川【首都圏格差シリーズ】憧れの街の意外な現実

(Image:Shutterstock.com)

 二子玉川住民にとって最大の頭痛の種は、通勤電車の混雑状況だろう。とくにラッシュ時の田園都市線は、各駅停車でも急行でもつねに200 パーセント前後の混雑率を記録しており、私鉄の中では混雑率が日本一高いともいわれている。これは沿線の各町が二子玉川と同様に無秩序に再開発を繰り返してきた結果、人口が増加しすぎたことが原因だ。ただ車両内の混雑率が高いだけにとどまらず、ラッシュ時にはダイヤ調整や車両間隔の調整で予定より大幅に到着時間が遅れることもザラで、二子玉川から渋谷まで通常なら約15 分のところが20分以上もすし詰めにされることもある。いつまでたっても通勤地獄は解消されないままだ。
 また、都心から離れた郊外の割りに家賃相場や地価が高く、それに付随して物価も相応に高い。路面価格が高いせいでチェーン系の出店は少なく、またインデペンデントな店も少なく、結局は東急ライズや高島屋に依拠することを余儀なくされる。そして、小規模の店舗が少なく、どこもかしこも21時を過ぎると店を閉めてしまうため、町全体がひっそりと寂しくなる。それを閑静で静かな住環境とポジティブにとらえられればいいが、実際のところ、夜間の治安の悪さにつながっているのだから看過できない。昼間にママ友とランチやショッピングを楽しめるセレブ専業主婦にとっては居心地の
いい清潔な街だが、それを支えるお父さん方や共働き家庭は、あまりメリットを享受できていないという側面も……。ご苦労様である。

文=

引用元:首都圏格差 首都圏生活研究会 (著)(三交社刊)

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