吉祥寺【首都圏格差シリーズ】憧れの街の意外な現実

吉祥寺といえば、最近人気が下がったとはいえ、いまだ全国的に名の知られた「住みたい街」である。不動産業者や雑誌などが実施する「住みたい街アンケート」では長年にわたって首位を独走し続け、現在でもかならずといっていいほど上位にランクインするほどの人気ぶりだ。その「住みたい街」イメージがあまりに浸透しているので、『吉祥寺だけが住みたい町ですか?』(マキヒロチ)というタイトルのマンガが描かれ、しかも2016年にはテレビ東京系列でドラマ化もした。
あらためて吉祥寺の人気の理由を考察するに、やはり都心へのアクセスの良さが挙げられる。中央線快速であれば新宿まで16分、京王井の頭線の急行であれば渋谷まで18分と、その利便性の高さは大きなセールスポイントだ。また、吉祥寺駅周辺のデパートや商業施設の充実ぶりにも目を見張るものがある。吉祥寺パルコ、吉祥寺ロフト、丸井吉祥寺店といった若者向けのデパート群にくわえ、キラリナ京王吉祥寺やアトレ吉祥寺といった複合商業ビルが林立し、周辺住民の生活を支えている。さらに劇場やライブハウス、映画館、昨今ではアニメーション制作会社などもあり、サブカルチャーの発信地としての側面も併せ持つ。
そうした都市生活としての華やかさを謳歌できる一方で、少し足を伸ばせば井の頭公園があり、都会と自然がほどよく調和し、バランスのいい住環境となっている。吉祥寺駅周辺には成蹊大学や東京女子大学をはじめとする複数の大学があるが、毎年春に地方から上京してくる学生にとっては、まさに理想的な「住みたい街」なのだろう。

時代の変化に合わせて街が変化

吉祥寺【首都圏格差シリーズ】憧れの街の意外な現実

(Image:picture cells / Shutterstock.com)

 現在では不動の「吉祥寺ブランド」を確立した感があるが、都心から離れた郊外の都市がなぜこれほど発展できたのだろうか。
 もともと吉祥寺は江戸時代には農村だった。明治32(1899)年に甲武鉄道(現在の中央線)の吉祥寺駅が開通し、大正6(1917)年には井の頭恩賜公園が開園し、この頃は行楽地として認知されるようになる。大正12 (1923)年に関東大震災が起きると、家を失った多くの人々が宅地を求めて移住してきて、さらに成蹊大学や東京女子大学が移転してきたことから文教都市としての地盤が形成された。
 戦時中には鉄道へ延焼しないように駅周辺の建物が撤去されたが、その更地には戦後に闇市が建つようになる。その名残は、現在もハーモニカ横町にみとめることができるだろう。やがて戦後の復興期に住宅団地が建設されると、一気に住宅地化が進む。そして高度成長期には、行政と住民の話し合いで都市再開発が計画された。これによりアーケード街が整備され、鉄道の高架化が進められ、大型商業施設が出店しやすい町並みが形成されていった。このように吉祥寺は、つねに時代の変化に合わせて、街の姿を変えて発展してきたのである。

住みたくても駅周辺の住宅地は希少

吉祥寺【首都圏格差シリーズ】憧れの街の意外な現実

(Image:Rei Imagine / Shutterstock.com)

 誰もが羨望の眼差しを向ける「住みたい街」吉祥寺だが、しかし現実問題として、駅周辺には住宅街が存在しない。そもそも駅周辺は商業区画になっているのだから、住宅地は必然的に駅から離れているわけだ。また、ラブホテルや風俗店が広がる線路沿いのエリアへと住居を求めるのも、生活環境の面を考えるとあまりオススメできない。そのため住宅地となると末広商店街方面に限られてきて、しかも徒歩10分圏内となると物件はかなり限定的になってしまう。
 それでいて人気の「住みたい街」であるため、ワンルームの家賃平均額は7万円台と高い。学生のひとり暮らしには明らかに割高だ。結局のところ、吉祥寺駅から徒歩15分以上という、ほとんど隣町と言っていいような場所に住居を求めることになるだろう。
 また、利点のひとつである鉄道交通網についても、快速(中央線)や急行(京王井の頭線)の本数やダイヤの関係から、想定していたよりもアクセスが良いとは感じない。「新宿と渋谷のどちらにも出られる」はずが、「新宿と渋谷のどちらからも離れている」のが実感ではないだろうか。
 自宅から駅までの距離、都心へのアクセス時間、吉祥寺駅周辺にある程度のものが揃っているといった要素があわさることで、わざわざ都心まで足を伸ばす機会が次第に減っていき、駅周辺だけで物事を完結させてまいがちだ。とはいえ、吉祥寺周辺だけでは住民の多彩な要求を満たすだけの多様性は確保できず、結局は「帯に短し、たすきに長し」。わざわざ利便性を求めて吉祥寺に住居を求めた結果、あらゆることに不便さを感じながら吉祥寺に引きこもるという、皮肉な結果になりかねない。
 たとえば駅までの道のりを散歩したり、あるいは通勤や通学の手段をジョギングや自転車にして運動不足解消に役立てるなど、不便さをポジティブに楽しんでいけるような心構えがあれば、元来、吉祥寺が持つ便利さをフル活用した快適な吉祥寺ライフが送れる。上京直後の人が「住みたい街」としてファーストチョイスに選ぶのではなく、都市生活に慣れた上級者にこそ適した町といえるのではないだろうか。

引用元:首都圏格差 首都圏生活研究会 (著)(三交社刊)

 

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