今、YouTubeで大人気の「VTuber(バーチャルYouTuber)」。1日に配信しているVTuber動画はかなりの数になるため、どうしても推しVTuberのライブ配信時間が重なってしまう場合があります。そこでVTuberファンが活用しているのが「切り抜き動画」です。これは、長時間の配信を短く編集したもので非常にありがたいのですが「これって違法じゃない?」「収益化しても問題ないの?」と疑問に感じている人もいることでしょう。そこで今回は、VTuberの切り抜き動画について詳しく解説します。
VTuberを追いかけるのに必須な「切り抜き画像」とは?
2021年10月時点で1万6,000人を超えているVTuber。現在もなお毎月100人前後の新人VTuberがデビューしており、VTuberがアップする動画やライブ配信の数は膨大なものとなっています。
なかには、1週間で80時間以上の配信をするVTuberもおり、いくら“推し”の配信とはいえ、そのすべてを視聴するのはなかなか難しいでしょう。
そこで、VTuberファンが活用しているのが「切り抜き動画」です。これはVTuberがアップした動画やライブ配信のハイライトシーンだけを切り出して再編集した動画のことです。
切り抜き動画は、VTuberが所属する事務所や本人が製作してアップする場合もありますが、そのほとんどは「切り抜き動画職人」と呼ばれる人がアップしているものです。
このような切り抜き動画は、長時間動画をチェックする時間のない視聴者から支持されており、なかにはVTuber本人から承認されている場合もあります。
でも、そこで気になるのが「切り抜き動画は著作権法上問題はないのか?」「切り抜き動画で収益を上げてもいいのか?」ということです。果たしてどうなっているのでしょうか?
許諾を受けない「切り抜き動画」は基本的に著作権侵害に当たるが……
VTuberの動画のハイライトを短く再編集した「切り抜き動画」は、VTuberの動画(=著作物)を使用することになります。
もちろん、VTuberの動画は本人や事務所が著作権を有しているため、許可を受けずに勝手に切り抜き動画を作ってYouTubeなどにアップする行為は、当然「著作権侵害」に当たります。
著作権者にはさまざまな権利があり、許可を得ずに第三者が勝手に著作物を改変したり、誰もが見られる状態(YouTubeなどでの公開)にすることは禁じられているのです。
もし、著作権を侵害すると刑事罰(10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金)があるだけでなく、著作権者から損害賠償請求をされ、莫大なお金を支払うはめになる場合もあり得ます。
とはいえ、著作権侵害は著作権者自身が訴えなければ罪には問われない「親告罪」となっていますので、VTuberや所属事務所としては、熱心なファンが二次創作として切り抜き動画を作成して楽しんでいる分には、“黙認”している状況であると言えます。
●一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)→こちら
VTuber大手事務所「ホロライブ」は切り抜き動画の収益化もOK!
アニメや漫画、ゲームなどは、ファンがそのコンテンツを盛り上げるために二次創作の同人誌やグッズ、動画などを作ってファン同士で楽しむことがよくあります。
VTuberや所属事務所もその事情をよく理解しているので、VTuberの大手事務所では「二次創作に関するガイドライン」を制定して公表し、ある程度は切り抜き動画の作成&公開を認めています。
つまり、事務所が公開しているガイドラインを遵守していれば、著作権者に毎回許諾を取らなくても二次創作としての切り抜き動画をYouTubeにアップロードしても問題ないというわけです。
もちろん、創意工夫のないコンテンツをそのままコピーしただけの動画は、二次創作とは認められませんし、営利目的の個人や法人はこのガイドラインは適用されません。
まず、VTuber大手事務所「ホロライブ」のガイドラインを確認してみましょう。
●ホロライブ「二次創作ガイドライン」→こちら
■ホロライブの「二次創作&切り抜き動画に関するガイドライン」の主なポイント(ホロライブ「二次創作ガイドライン」より抜粋)
・所属タレントが不快と感じるものは控える
・同人活動や趣味の範囲であること。営利目的・法人による利用は禁止
・公序良俗、反社会的、特定の思想・信条や宗教的、政治的な内容、所属タレントや当社コンテンツのイメージを著しく損なう、第三者の名誉・品位等を傷つける、第三者の権利を侵害するといった表現はNG
・切り抜き動画概要欄の冒頭に、元動画のURLとタイトルの情報を明記すること
・メンバーシップ限定動画やチケット制ライブ動画その他の有料コンテンツは、特別に許可されない限り禁止
・元動画の配信が終了しアーカイブが公開されるより前の切り抜き動画投稿はNG
・上記ガイドラインを遵守したうえで、切り抜き動画を収益化することは差し支えない。ただし、元動画に含まれる第三者コンテンツ権利者の利用規約等その他関係する規約に抵触しないことが前提
・切り抜き動画チャンネルをホロライブに登録すること
・制作・投稿した切り抜き動画について、コンテンツID等の登録を含む自己の著作物としての自動識別機能の登録は禁止
ホロライブが制定した「二次創作ガイドライン」のなかでは「二次創作に該当し、全般ガイドラインを遵守しているものであれば、皆様の創作活動について、当社より権利行使をすることはございません」と明記されています。
また、二次創作ガイドラインのなかに「切り抜き動画に関するガイドライン」もきちんと設定してあり、ガイドラインを遵守し、個人の趣味の範囲であれば切り抜き動画を作成して公開してもよいとされています。
しかも、自身の動画チャンネルをホロライブに登録することで、切り抜き動画のYouTubeなどの広告収入を含む「収益化機能」を利用してもよいとなっているのは驚きですね。
もちろん、切り抜き動画を収益化するときは、ホロライブが権利者ではないコンテンツ(ゲームや音楽等)を含むものは禁止されているので、十分注意しましょう。
「にじさんじ」では切り抜き動画の収益化はやや慎重
「いちから株式会社(にじさんじ)」でも「ANYCOLOR二次創作ガイドライン」を公開しており、冒頭で「当社は、より多くのみなさまに安心して二次創作活動を行っていただけるよう、二次創作活動を楽しむためのガイドライン(以下「本ガイドライン」と表記します。)を策定いたしました」と明記しています。
このにじさんじの二次創作ガイドラインの内容は、ホロライブのガイドラインに近い内容になっていますが、切り抜き動画の収益化については対応がやや異なります。
その内容は「当社が独占的に著作権を有しない(またはこれを有しなくなった)コンテンツや当社が独占的に著作権を有しない作品を含むコンテンツを原作品とする二次創作活動(たとえば、第三者の著作物を含む「ゲーム実況動画」や「歌ってみた動画」を基に作成されるいわゆる「切り抜き動画」の投稿などがこれに当たり得ます。)をする場合は、二次創作作品の収益化投稿(「YouTubeパートナープログラム」などのシステムを使用して、収益を得られるような形式で二次創作作品を配信プラットフォームに投稿することを意味します。)の可否を含め、みなさまが自らの責任で権利者から許諾をとる必要がございます」(「ANYCOLOR二次創作ガイドライン」より引用)となっています。
つまり、にじさんじが権利を有しないコンテンツ(ゲームや音楽など)が含まれている切り抜き動画を収益化すると、製作者本人が権利者の許諾を得る必要がありますので、トラブルを回避する意味でも、このような切り抜き動画の収益化は控えるように促しているのです。
●にじさんじ「ANYCOLOR二次創作ガイドライン」→こちら
まとめ
いかがでしょうか? VTuberの切り抜き動画をYouTubeにアップロードするには、基本的に著作権者(VTuber本人や所属事務所)に許諾を受ける必要があります。
しかし、二次創作のガイドラインを公表しているVTuberの事務所であれば、ファンが個人的に楽しむ分にはガイドラインを遵守することで、切り抜き動画の作成と公開が認められていることがお分かりいただけたでしょう。
ただし、切り抜き動画の収益化については事務所ごとで対応が異なりますので、各事務所のガイドラインをよく読んでから判断する必要があるのです。