2022年9月28日、総務省では自然災害や通信事故等の非常時に、契約キャリア以外のネット通信を利用できる「事業者間ローミング」を導入するための有識者会議を開催しました。この提案に、携帯大手4キャリアは「賛同」の意を示しており、近い将来、災害・通信障害時にローミングを行うことが実現しそうです。そこで今回は、災害・通信障害時のローミングとは何か? この先どうなるのかを解説しましょう。
災害・通信障害時の事業者間ローミングってどういうこと?
2022年7月にKDDI(au)の大規模通信障害が発生し、電話やネット接続、緊急通報などができなくなったことは記憶に新しいでしょう。
ほかにも、毎年起きる豪雨・台風などの災害、将来発生する確率が高いと言われる南海トラフ地震や関東大震災などに備えるため、総務省は2022年9月28日、自然災害や通信事故等の非常時に、契約キャリア以外のネット回線を利用できる「事業者間ローミング」を導入するための有識者会議を開催しました。
この会議では、非常時や通信障害発生時に携帯電話利用者が臨時的に他の事業者のネットワークを利用できる「事業者間ローミング」だけでなく、Wi-Fiを活用した方法なども検討されています。
この提案に対し、携帯大手4キャリアは「賛同」の意向を表明していますが、この事業者間ローミングとはいったい何なのでしょうか?
●総務省「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会(第1回)配付資料」→こちら
なぜ、総務省はこのような会議を実施しているのか?
2022年9月28日、総務省では「非常時における事業者間ローミング等に関する検討会」の第1回有識者会議が開かれました。
この会議に提出された資料によると、110番通報は約840万件(令和2年)あり、携帯電話からの通報が74.4%を占めています。しかし、令和4年7月のKDDIの大規模通信障害時には、通常より45%も減少していたと指摘。
やはり、総務省はこのような通信障害の問題を重視して、今回の有識者会議が実施されたことが伺えます。
なお、韓国ではすでに2019年4月に災害時のローミングシステムを構築。ウクライナではロシア侵攻により携帯事業者3社が全土でローミングを可能に。また、米国も2012年のハリケーン・サンディで被災したとき緊急ローミングを実施、その後2022年7月に災害時の事業者間ローミングを義務化している事例も紹介されています。
それでは実際に事業者間ローミングとはどのようなものなのか確認してみましょう。非常時における事業者間ローミング等に関する検討会(第1回)配付資料によると、主に以下の3パターンが検討されています。
■事業者間ローミングのパターン
【1】緊急呼発信のみローミング
被災者がとりあえず110番や119番などに、他のキャリア回線から発信のみができる方式。ただし、折り返し通話ができない問題がある
【2】一般呼発着信ローミング(フルローミング)
非常時には他キャリア回線から、110番や119番以外の発着信も可能にする方式。ただし、帯域が圧迫される可能性が高く、本来通信障害のない顧客にも影響が出る可能性がある。また、事業者間での検証が必要になり導入まで時間がかかる場合も
【3】SIMなし端末発信
どのキャリアにも登録がなく、番号を持たない端末から110番や119番などへの発信を可能にする方式。ただし、TDos攻撃のリスクがあるほか不正利用が懸念される。もちろん折り返し通話もできない
理想的なのは「一般呼発着信ローミング(フルローミング)」ですが、もっとも現実的なのは「緊急呼発信のみローミング」で、非常時にとりあえず110番や119番などに、他のキャリア回線から発信のみができます。
「SIMなし端末発信」は、SIMがないスマホからでも110番や119番に発信できるというもので、米国ではすでに実施されているそうです。
大手4キャリアの災害・障害時のローミングに対するスタンスは?
今回の有識者会議では、ドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク、楽天モバイルの大手4キャリアが、それぞれ資料を提出しており、災害・障害時のローミングに対する考えを表明しています。
いずれも「賛同」の意を示していますが、細かい部分では意見の相違も見られます。とくに、緊急呼発信については賛成でもフルローミングとなると、かなり難しい部分があるとする意見もあるようです。
ドコモの見解
ドコモは国民の生命・財産を守る重要通信の確保は、電気通信事業者に課せられた使命とし、日頃から大規模災害や通信障害等が発生した場合は、迅速に重要通信の確保を行っていると表明。
そのうえで緊急呼当のローミングを行うことは有益と考え、「積極的に検討・実現」していくことに賛同しています。
KDDIの見解
つい最近重大事故を起こしたばかりのKDDIはお詫びをしたうえで「強く賛同」することを表明。
緊急呼発信は検討可能で、フルローミングに関しても検討が必要としています。
しかし、ローミング解放の可否の明確な判断基準、運用規定を定める必要があると課題の提起も行っています。
ソフトバンクの見解
ソフトバンクは、モバイルサービスがSMSを用いた本人認証や「PayPay」をはじめとした決済などにも使われることもあり、「強く賛同」すると表明。
ただし、緊急呼発信のみが妥当としています。また、緊急呼以外の通信についてはデュアルeSIMを用いた仕組みを提案しました。
楽天モバイルの見解
楽天モバイルも9月4日の通信障害をお詫びをしたうえで、災害や通信障害時にローミングすることに「強く賛同」しました。
そのうえで、まずは緊急呼発信ができることを最優先に考え、段階的に充実させていくことが望ましいとしています。
楽天モバイルでは、2025年にまずは緊急呼発信を実現し、その後202X年にフルローミングすることを想定しています。
まとめ
いかがでしょうか? 確かに、災害時や通信障害時に他キャリアの回線にローミングできるなら、それに越したことはないでしょう。
この有識者会議はまだ始まったばかりですが、幸い大手4キャリアがいずれも「賛同」しているので、近い将来、緊急呼発信から事業者間ローミングが実現されるかもしれません。
※サムネイル画像(Image:Memories Over Mocha / Shutterstock.com)