Windows 8及び8.1は、歴代のWindowsの中でも「OSシェアの獲得にもっとも失敗したOSだった」と言っても過言ではありません。Windows 7が高評価のOSであったことから、この記事をお読みの方の中にも「Windows 7をギリギリまで利用し、Windows 10が登場した際にWindows 8を飛ばしてアップデートした」方もいるのでは?
なおWindows 8の登場は2012年。その翌年にWindows 8.1が登場しています。同OSの最盛期である2015年5月時点でも、シェアは22.41%。Windows 7が約6割のシェア、Windows XPすら5%程度のシェアを持っていることを考えると、非常に低い数字と言えるでしょう。
なお2015年当時は、MicrosoftはWindows 8および8.1を搭載したMicrosoft Surfaceを積極的に販売していた時期にも該当します。
Surfaceは家電量販店の店頭でも積極的に取り扱われている人気機種でもあります。同機種に積極的に採用され、なおかつWindows 8から8.1へのアップデートも早期に提供されるなど「8と8.1」は意欲作のOSでもあったと言えるでしょう。ではなぜWindows 8と8.1は全く人気がないOSだったのでしょうか?
企業PCユーザーにとって乗り換える動機があまりにも薄かった
まずWindowsは「法人ユーザー」「個人ユーザー」がそれぞれ存在し、特に前者にとってWindows 8は乗り換えの動機が薄いOSであったと言えます。
たとえば米TechRepublicが2012年10月に企業のIT担当者向けに販売直前のWindows 8について、社内に導入するかどうかのアンケートを取ったところ、「導入の予定なし」と「再考の余地はあるが、現状では導入の予定なし」と回答した企業が合わせて73.7%だったそう。つまりWindows 8が登場した2012年時点で、そもそも同OSは少なくとも法人需要に全く応えられていなかったのが明らかです。
その要因には「UIの大幅な変更」「IEのバージョン」の2つが挙げられます。特に2012年~2015年頃の企業にとって「Internet Explorerのバージョン」は大きな問題でした。
Windows 8に搭載されているInternet Explorerの初期バージョンは、Internet Explorer 10です。たとえばInternet Explorer 8までしか作動しない業務ツールを導入している法人の場合、この一点だけでWindows 8の導入は選択肢から外れることになります。
これらの問題点はWindows 7では存在しないため、「問題があると分かっているOSに乗り換えるならば、前世代のOSを引き続き使えばよい」という層がかなりの数、存在していたと考えられます。
Windows 8.1での挽回も功を奏さず
これらの問題点は2010年代半ばにはWindows 8.1 Updateによって、ある程度まで対処は行われました。そのひとつがInternet Explorer 11に搭載された「エンタープライズモード」。IE8やIE7との互換性を提供するもので、これにより、古いバージョン向けに作られたWebサイトなどを表示することができるようになりました。
もっとも、繰り返しですが2010年代はWindows 7のサポートもまだまだ継続していました。よってWindows 8.1で法人利用における問題点に多少の対処が行われても、「Windows 7で十分」な感も強く、アップデート自体が魅力的には見えなかったと言えるでしょう。
デバイスのタッチ操作をあまりにも重視しすぎた
先にも述べた通り、Windows 8及び8.1はWindows 7と比べ、UIの刷新が行われたことも大きな特徴です。Microsoftが2010年代に注力度を高めたSurfaceシリーズにOSを搭載することを前提に、タッチ操作に適したUIでした。
とはいえ2024年現在、改めて振り返ると「PCのタッチ操作」にどの程度の需要が本当に存在していたのかは微妙なところです。
前述の通り、Windowsは法人需要と個人需要がそれぞれ存在しているOSです。企業ユーザーにとっては従来のキーボードとマウスによる操作があれば十分で、タッチ操作を前提としたUIはかえって邪魔なケースすらあるでしょう。同様に個人需要においても、タッチ操作する端末は「スマホで十分」な感もあったでしょう。
Surfaceが「売れなかった」ことも大きい
Windows 8及び8.1の評価は、仮に同OSを積極的に搭載したSurfaceシリーズが「爆発的に売れていた」場合には高評価になり得たかもしれません。
Windows 8及び8.1は、2010年代当時、Microsoftが積極的に売り出していたSurfaceシリーズに搭載されていました。同シリーズの最大の特徴は「タブレット」「ノートパソコン」の2 in 1であり、一台の端末をタブレットとしてもPCとしても使えることです。
もっとも2024年現在、Microsoft Surfaceは「iPadを凌ぐタブレット」に成長したとは言い難く、ノートパソコンとして見ると「2 in 1である必要性が薄い」というやや微妙な位置づけのデバイスと言えるでしょう。
2010年代に期待されていたほどにはSurfaceが普及せず、同シリーズに積極的に取り入れられたWindows 8と8.1も評価が伸び悩んだ側面があるのではないでしょうか。
タブレット市場は過大評価されていた可能性が高い
Windows 8および8.1の失敗を振り返るには、個人需要と法人需要の双方が大きなOSが全面的に対応する機能として「タッチ操作」に意味はあったのかが大きな点となるでしょう。さらに言えば、同OSを搭載する先としての「Surfaceシリーズ」には「Windowsの操作性を大きく変えるほどの価値があったのか」がポイントとなります。
結論から言えば、タブレット市場は10年代に期待されていたほどの巨大市場には発展せず、むしろ「タブレットとスマホを併用するのではなく、スマホ自体が大型化した」と言えるのではないでしょうか。
一例として直近の「国内のタブレット及びスマホの販売台数」を見てみましょう。MM総研の調査によると、2023年度、iPadは285.4万台を出荷し、国内のタブレット市場の48.5%をシェアとして獲得しています。この出荷台数は「多い」と言えるのでしょうか?
同年の国内携帯電話端末の出荷台数調査によると、iPhoneの出荷台数は1337.7万台。同じAppleでも、スマホとタブレットでは出荷台数に大きな差があると言えるでしょう。iPhoneの画面自体が大型化し、なおかつiPhoneに「Pro」シリーズが登場した結果、タブレットの存在価値が薄れている側面があります。
そして、Microsoftはまずスマホ市場で存在感を発揮できていません。ではタブレットとしてのSurfaceに目を向けると、MM総研の2023年度上期 タブレット端末出荷台数調査によると、Microsoftのタブレットの販売台数は30.1万台。この数字は半期のため、単純計算で倍にすると、年間の出荷台数は60万台ほどと言えるでしょう。iPadと比較して出荷台数に大きな差があります。
この出荷台数は「Windows」という巨大なOSが全面的にタッチ操作に舵を切るほどの価値がある台数かと言えば、疑問符が付きます。むろん10年代にはより販売台数が多かった可能性もあります。
とはいえ良くも悪くも「10年後には、年間で100万台未満」の出荷台数へとSurfaceが落ち込むのであれば、やはり「タッチ操作の全面的導入の価値があったか」は微妙ではないでしょうか。
Windows 8及び8.1の失敗を「10」「11」はどう乗り越える?
Windows8と8.1の失敗を受け、登場した「Windows 10」はWindowsの歴史に残る大成功を収めたOSです。また続くWindows 11はいままさに「普及の最中」です。8及び8.1の失敗をどのように後続のバージョンが乗り越えているのか、見ていきましょう。
Windows 10はWindowsの歴史に残る大成功
Windows 10はWindows 8で不評だったスタートメニューの刷新が見直され、従来のOSに近い操作感になりました。またIEのレガシーからついに脱却したOSでもあり、Microsoft Edgeがデフォルトのブラウザとして搭載され一定の支持を獲得しました。
結果として後にWindows 11が登場しましたが、Windows 10は販売当時「最後のメジャーアップデート」と銘打たれており、Windows 8及び8.1に嫌悪感を示したユーザーでも「最後のメジャーアップデートならばこの機会にバージョンを乗り換えよう」と導入した可能性が高かったと言えるでしょう。
Windows 11はAI機能がどう市場に受け入れられるか未知数?
Windows 10は2025年10月にサポートを終了する予定で、Microsoftは11への移行を強く呼びかけています。一方、サポート終了の1年前である2024年10月時点ではWindows 11のシェアは10のシェアを上回っていません。
Windows 11では、AIを活用した機能の強化が図られていますが、Windows 8の失敗を教訓に、ユーザーの実際のニーズと新機能のバランスを慎重に見極める必要があるでしょう。特にCopilotなどのAI機能が、実際のビジネスシーンでどれだけ活用されるかが、今後の成功を左右する重要な鍵となりそうです。
※サムネイル画像は(Image:「Microsoft」公式サイトより引用)