おしゃれで機能的なトースターなどで知られている家電ブランド「BALMUDA(バルミューダ)」。そのBALMUDAが2021年にスマホ事業に進出し、「BALMUDA Phone」をリリースしたことを覚えている方は少なくないでしょう。
BALUMUDA Phoneは多くのメディアや批評家から「失敗作」と受け止められ、非常に厳しい評価を受けました。そんなBALMUDA Phoneは2024年現在、どのような状況にあるのでしょうか。
「BALMUDA Phone」が失敗した主な理由
結論から言えば、バルミューダは2023年5月にスマホ市場から撤退(※BALMUDA Phone向けに制作されたアプリは2024年現在もGoogle Playにて公開されており、利用も可能です)。市場参入から撤退まで、その期間はたった1年半ほどでした。BALMUDA Phone失敗の主な原因と指摘される項目を、まずはいくつかご紹介します。
バルミューダの他の家電製品との連携が見えづらかった
先述した通り、バルミューダはもともと家電メーカー。そんなバルミューダがリリースした「BALMUDA Phone」はバルミューダの家電と組み合わせて利用するメリットが特にない端末でした。
自宅でバルミューダの家電を使っていたとしても、BALMUDA Phoneを使えば「自宅に居ながらにして空気清浄機のオンオフができる」といった機能性がなかったことを意味します。家電メーカーがスマホ市場に進出することの意義や斬新さ自体が見えづらかったと言えるでしょう。
スペック及び価格設定
BALMUDA Phoneの当初の本体価格は、104,800円でした(※2022年03月に78,000円に価格改定)。一方、スペックはSoCがQualcomm Snapdragon 765で背面カメラは4800万画素。
たとえば同時期に発売されたPixel 6(2021年10月28日発売)は74,800円で背面カメラは5000万画素。つまり、ほかのスマホと比較して「高い割にスペックが低い」ため性能面でポジティブな評価を与えることが難しい端末でした。
「乗り換え」を促すパワーを持たなかった独自アプリ
BALMUDA Phoneは独自アプリも複数搭載。しかし、その内容はホーム画面ランチャー、カメラ、スケジューラ(カレンダー)、計算機、メモ帳、時計などいたって基本的なもの。他のスマホから乗り換えを促すほどの斬新さや魅力が伝わりづらかったことは否めません。
なおBALMUDA Phoneの独自アプリは、2024年現在でも一部がGoogle Playで公開中です。次の章で「BALMUDA Phoneの独自アプリには本当に価値があったのか」を見ていきましょう。
実は独自アプリ「BALMUDA Scheduler」はいまでも使える
BALMUDA Phoneの独自アプリの一つである「BALMUDA Scheduler」は、2024年現在、Google Playにて無料公開されています。Androidスマホで利用可能なスケジュール管理アプリです。
ではそんな「BALMUDA Scheduler」は、バルミューダならではのUIの素晴らしさなどを実感できるようなアプリなのでしょうか?実際に「BALMUDA Scheduler」を使ってみましょう。
まずはGoogle Playより、アプリをインストールします。
インストールが完了したら以下の手順で、新規の予定を作成していきます。
「BALMUDA Scheduler」は予定の追加や編集を簡単に行うことができ、視覚的にも見やすいデザインが特徴。数日分の予定を確認するだけでなく、週・月・年単位での予定をピンチ操作だけで簡単に閲覧・管理できます。
また予定は、登録時にそれぞれカラーを設定可能。たとえばMTGは赤、食事予定は青といった具合に設定することで、ピンチ操作の際に「青の予定だけをチェックすれば、食事予定を週・月・年単位で確認できる」といった利便性があり餡巣。
筆者は個人的に、アプリ自体の完成度は高いと思いました。BALMUDA Schedulerと同様のピンチ操作の利便性があるスケジュール管理はあまりなく、週単位・月単位の予定を直観的に管理できる点は利点です。
一方で無料アプリとしては間違いなく高く評価すべきものですが「このためにスマホを買い換えたいほどではない」とも感じます。高度なスケジュール管理自体は、仕事関連であれば法人向けSaaS、個人のものであればGoogleカレンダーなどでもある程度実現できるためです。
たとえばBALMUDA Schedulerに登録したスケジュールに合わせて、起床時間に合わせて自動的にコーヒーが抽出されているなど「家電との連携」があると大きくアプリへの印象が違うかもしれません。
「家電」と「スマホ」の連携の将来性は?
前述の通り、BALMUDA Phoneにはバルミューダの家電との連携はありませんでした。
その理由について、寺尾玄氏(バルミューダ創業者)は2021年時点で「BALMUDA Phone自体は現状、独自アプリで家電に繋ぐつもりはありません。以前、我々は2013年頃に、加湿器や空気清浄機とをスマートフォンに連携させる「UniAuto」というアプリで、IoTに取り組みました。その際、家電とIoTは相性があまり良くないと思ったので、現状は一切考えてないですね」と語っています。
とはいえこの発言はすでに3年前のものであり、なおかつ同社が「UniAuto」に取り組んだのは2013年の出来事であることには注意が必要です。2013年にスマートホーム的な発想のもと、IoTに取り組んだことは「時代を先取りしすぎていた」のかもしれません。2024年現在は、2013年と比較すると「スマートホーム」の知名度や普及度、海外での先行事例の数などが圧倒的に違います。
海外での先行事例には、たとえば中国国内におけるファーウェイの取り組み例が挙げられます。
ファーウェイは2019年のアメリカによる制裁をきっかけに、独自OSである「HarmonyOS」の開発に着手。そしてHarmonyOSは日本国内ではあまり普及していないものの、中国国内では急速に普及し、中国国内では「スマートフォン」「タブレット」にとどまらず様々な家電や車にまで搭載されています。
つまり1つのモバイルOSがスマートフォンやタブレットから家電、自動車まで横断的に搭載されている状態です。スマートフォンと自動車を横断的に跨ぐアプリや、タブレットと家電を跨ぐアプリや各種機能を開発しやすい状態であることを意味します。
つまりスマートホームやスマートカーといった観点で見ると、HarmonyOSは「OS」として想像以上の広がりを見せる可能性があります。
とはいえ一つのモバイルOSがスマホから家電、車まで横断的に搭載され、なおかつそれらが実用的に使われる未来は2013年時点では「ちょっと遠いもの」であったことも否めないでしょう。バルミューダが2013年に行ったIoT家電への取り組みは早すぎた可能性があります。
裏を返せばスマート家電やスマートカーが日本でも当たり前になった時代に、IoT化に対応するBALMUDA Phoneがリリースされていれば、市場に与える影響は少し違ったかもしれません。