かつて携帯電話に「着メロ」や「着うた」を設定していた人も少なくないでしょう。着信音が鳴るたびに好きな音楽を再生することができ、着うたフルが登場してからは「CDではなく着うたフルを買う」のも決して珍しくはありませんでした。音楽配信の在り方として1つのスタンダードを作ったサービスだったとも言えるでしょう。
しかし、携帯電話からスマホに移行するにつれ「着メロ」「着うた」は廃れたと言っても過言ではないでしょう。爆発的な人気を誇った「着メロ」「着うた」はスマホ時代に着うたが馴染まなかったのはなぜなのか、見ていきましょう。
「着メロ」「着うた」の市場規模はどれくらいだったのか
「着うた」は2002年にサービスが開始。登場直後から若者を中心に大人気となり、2009年には市場規模がピークの1200億円を超える大きな市場に成長しました。
サービスが飛躍的に拡大した要因はさまざまあります。その一つと考えられるのが、iTunes Store(2003年開始)で未配信の邦楽アーティストの楽曲が、日本発祥である「着うた」では多数配信されていたこと。
さらに「iPodとiTunes Music Storeはパソコンでダウンロードした楽曲をiPodに転送する必要がある」のに対し「着うたフルは携帯電話で完結するのが強みである」という違いもあり、特に着うたフルが全盛を誇った2005年から2008年頃は爆発的に流行しました。
しかし2009年をピークに、「着メロ」「着うた」の市場規模は2011年から2014年にかけて年々半減を繰り返すようになりました。
「着メロ」に対して00年代は7割のユーザーが利用意図を示していた
着メロや着うたは日本の「ケータイ文化」において、極めて好意的に受け入れられたサービスだったことは間違いありません。
たとえば総務省から日本総合研究所への委託により2002年に実施された「ITと国民生活に関する調査分析」の結果によると、「音楽や映画などをダウンロードして、好きなときに楽しめるサービス」や「インターネットならではの貴重なコンテンツを、好きなときに楽しめるサービス」について、7割以上の人が今後の利用意向を示していました。
また総務省郵政研究所の実施した調査によると、インターネットで配信される有料の映像・音楽コンテンツの利用意向については「レンタル店でレンタルする価格と同程度または、それよりも安価なら利用したい」という回答が大半という結果でした。
通信手段としての携帯電話の本来の目的よりも「着メロを聴きたい、利用したい」という需要の方が大きい状態だったと言えるかもしれません。つまり、着メロや着うたはケータイ文化における「新しいエンタメだった」のではないでしょうか。
「着メロ」「着うた」はなぜ廃れたのか
極めて消費者から好意的に受け入れられており、一大市場を築いた「着メロ」「着うた」はなぜ廃れていったのでしょうか。要因を一つひとつ考察していきます。
「配信」が主流のスマホの普及
そもそも、着メロや着うたはガラケー向けのものとして登場したサービス。そして着メロや着うたは「購入し、端末に保存するものである」という特徴があります。この「購入し、端末に保存する」というコンテンツの在り方は、配信が瞬く間に拡大したスマホ時代にはそぐわないものとは言えるでしょう。
「スマホの普及」「4Gや5Gに代表される高速通信の浸透」を見据えたストリーミングサービスの代表格には、2008年に誕生した「Spotify」が挙げられます。国内ではSpotifyの普及は遅かったものの、海外では早くから「購入」ではなく「配信」で音楽を楽しむ視聴スタイルが定着しました。
日本国内に目を向けると、ニコニコ動画やYouTubeなどの動画配信は比較的早く普及しました。これらの動画配信サービスは、間接的に「音楽配信」の役割を担っていたと言えるかもしれません。00年代後半~10年代にかけてニコニコ動画でボカロ楽曲にハマった方も多いのでは?
音楽配信、動画配信のいずれも「配信」であることには違いがありません。配信がコンテンツの楽しみ方として主流になる中で、端末に音源を保存する必要がある「着うた」の不便さが際立っていった可能性が高いです。
なお平成14年版の情報通信白書には示唆的な一文があります。それは「インターネット配信されるコンテンツを利用する際の意識が、コンテンツを購入・保存するというよりも、コンテンツを借りる(「レンタル」)感覚に近い」というもの。
「購入に近しい着うた」ではなく「レンタルに近しい配信サービス」に人が流れたのは、インターネットでコンテンツを楽しむ時代においてはごくごく当たり前だったのかもしれません。
4G回線の普及
4G回線(第4世代移動通信システム)は、2010年にNTTドコモが「ドコモLTE-Xi(クロッシィ)」として開始したもの。他キャリアでも瞬く間に4Gサービスが開始され、それまでの3G回線よりも大幅に通信速度が向上しました。
通信速度の向上を背景に、3G回線の時代と比べ、スマホでYouTubeやニコニコ動画といった動画配信サービスを楽しむ人が増加しました。
これらの動画配信サービスは無料で利用でき、なおかつ端末への保存が不要でストレージを圧迫する心配もありません。逆に、ストレージを圧迫し、なおかつ一曲ごとにお金がかかり、音声しか楽しめない着うたは魅力が薄れた側面があるでしょう。
「ケータイサイト」の存在感が急激に薄れた
着メロや着うたはiモードやEZwebの対応サイトからダウンロードするケースが主流でした。たとえばEZwebで2002年に告知された新サービス「着うた」のリリースでは、以下のような文言があります。
「最新のヒット曲(15秒~30秒程度)をauの携帯電話インターネット接続サービス「EZweb」上の対応サイトからダウンロードし、着信音・アラーム音として利用したり、そのまま再生して楽しむことができるサービス」
一方でスマートフォンの普及後は、iモードやEZwebにアクセスすることなく直接スマホブラウザからPC向けのウェブサイトにアクセスすることが一般的に。よってケータイサイトの存在感が薄れ、着うた対応サイトに接する機会自体が減少しました。
連絡手段の変化
「連絡手段の変化」も見逃せない要素です。元々、着メロや着うたは「着信音」です。しかし、LINEなどの普及によって電話をかけたり受信する機会自体が減少しています。よって「着信音」の必要性や関心がなくなり、着うたの魅力が薄れた面があるでしょう。
「着うた」の現在
着うたの代表格であるレコチョクは2016年にサービスを終了。モバイルの音楽配信市場の衰退とともにそのサービスを終了するに至りました。
スマホでいまでも「着うた」相当の機能を楽しみたい場合、2024年現在、主流なのは音楽ストリーミングサービスの楽曲を着信音に変更するもの。たとえばLINE MUSICでは、LINEの着信音をLINE MUSICの楽曲に変更可能。このように時代とそのニーズに合わせて、サービスの形を変えて進化を続けています。
※「着メロ」は株式会社YOZANの登録商標です。
※「着うた®」「着うたフル®」は株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントの登録商標です。