日本事業売却後の「ボーダフォン」のいま:欧州では通信会社として健在?

2006年に日本事業をソフトバンクに売却した「ボーダフォン」。

(画像は「ソフトバンク」公式サイトより引用)

売却額は約1兆7500億円(89億ポンド)で、ボーダフォン日本の株式の97.68%がソフトバンクに譲渡されました。この売却はボーダフォンが日本市場でやや苦戦していたことが、まず背景にあります。

一方ソフトバンクにとって、J-PHONE時代から続くボーダフォンの顧客基盤を持つ携帯電話事業に即座に参入できるチャンスでした。なお孫正義氏は日本ボーダフォンの買収前から、Apple社及びスティーブ・ジョブズ氏に接触。iPhone発表の2年前の段階で、孫氏は「モバイル機能を加えたiPod」のスケッチをジョブズ氏に持参したといいます。そして孫氏は「あなたの製品を日本用に私に下さい」として日本向けの独占販売権を手にし、合わせて日本ボーダフォンを200億ドルを投じて買収しています。

その後のソフトバンク社の飛躍は多くの方に知られている一方で、ソフトバンクに事業売却したボーダフォンがいまどのような状況にあるか、知らない方も多いのでは?今回は意外と知らない「ボーダフォンのいま」をご紹介します。

2024年現在、ボーダフォングループの時価総額はいくら?

2024年9月23日時点でボーダフォン・グループの時価総額は26,449,978.00千ドルとなっています。同日の円相場は1円=144.45円のため、日本円に換算すると3兆8,206億9,930万円に。
一方、ソフトバンクグループの時価総額は12兆7,536億7,990万円となっているため、ボーダフォン・グループを大きく上回っていると言えるでしょう。

なおソフトバンクグループは通信事業のみならず複数事業を展開。世界有数の投資会社でもあるソフトバンクグループとボーダフォングループでは事業領域が異なるのは事実です。

とはいえ、欧州有数のキャリアであるボーダフォングループの時価総額が3兆円前後というのは「伸び悩み感」を感じる方もいるでしょう。実はボーダフォングループは欧州の携帯電話市場で過当競争のまっただ中に存在しており、事業売却や再編が続いています。

欧州の携帯電話市場で過当競争に巻き込まれる「ボーダフォン」

日本国内でサービス展開をしていた際には、デイヴィッド・ベッカム氏を起用した広告キャンペーンなどで広く知られていた「ボーダフォン」。ベッカム氏がかつてイメージキャラクターを務めていたように、ボーダフォンは英国をはじめとする欧州事業(※及び近年はアフリカ事業)でシェアを持っています。

(画像は「Vodafone」公式サイトより引用)

2019年以降、ボーダフォンは5Gへのシフトに乗り出し、たとえばドイツで5G向け周波数オークションに参加し、落札。一方で2024年春、ボーダフォンは英国での3G回線を停波しています。3G停波に極めて大規模なリソースを要した反面、5Gへの取り組みは必ずしもうまくいかず、なおかつ欧州内の通信事業者の競争が過熱。最終的に欧州内の複数の国での事業の売却にいたっています。

ファーウェイ問題の余波を受けたボーダフォン

ボーダフォンは2019年以後、5Gへの取り組みに注力。先にも述べた通り、たとえばドイツで5Gのオークションに参加し、落札もしています。

一方、ボーダフォンの5G展開には問題も発生していました。最大の困難は、5G機器として中国の通信機器大手ファーウェイ製品を採用していましたが、2021年にイギリス政府が通信網にファーウェイ製品を使用することを禁止したこと。この決定に対し、ボーダフォン側はファーウェイ製品の除去に約2億ユーロかかると発表。

3G停波と5G展開向けに展開していたファーウェイ製品の除去による、5G展開の遅れという2つが重なっており、ここ数年はボーダフォンにとって「大変な時期」であったことは間違いないでしょう。

スペイン事業やイタリア事業をすでに売却済み

先にも述べた通り、ボーダフォンは欧州でのシェアが大きな通信企業。しかし欧州圏内の一つひとつの国の人口は決して多くはなく、経済規模が大きな国もある程度限られている一方で、3G停波と5G展開には膨大なコストを要します。また通信会社の数自体も増加しています。つまり「契約者数の母数と伸びしろ」の面で難しい局面にある一方で、本格的な5G展開の初期投資が大きく、欧州はいわば「通信会社の過当競争」に陥っています。

ボーダフォンも競争に巻き込まれているのは間違いなく、事業の再編を進めています。2023年10月には、スペイン事業をイギリスの投資会社Zegonaに売却する契約を締結。さらに、2024年3月にはイタリア事業をスイスの通信会社Swisscomに80億ユーロで売却することを発表しています。これらの動きは、ボーダフォンが収益性の低い市場から撤退し、より成長が見込める市場に注力する戦略の一環と言えます。

英国内でも競合他社の経営統合計画を実施

イギリスでは国内シェア3位だったボーダフォンですが、2023年にシェア4位のスリーUKとの統合を発表。これにより、顧客数は2800万件となり、イギリス国内で最大手となる見込みです。このような事業再編を通じて、欧州での競争力強化を進めていると言えるでしょう。

日本企業と組んで、アフリカ事業への注力度を高める

欧州市場での競争が激化する中、ボーダフォンは実は「日本企業」と改めてタッグを組み直し、今度はアフリカ市場への注力を強めています。

2023年には住友商事と提携したボーダフォンは、ケニアでスタートアップ企業の支援事業を開始。有望企業の早期発掘をアフリカで手がける通信事業との連携に繋げるプロジェクトです。ボーダフォンはアフリカに「新たな成長分野や市場」を求めていると言えるのではないでしょうか。

つまり日本事業売却後のボーダフォンは、欧州で一定のシェアを保ち続けてはいたものの、3G停波や5G展開、欧州の過当競争の中で近年は苦戦傾向。その中で新たに「アフリカ市場」に展開し、日本企業とも再度タッグを組み直していると言えます。

※サムネイル画像(Image:Tupungato / Shutterstock.com)

オトナライフ編集部
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