最新ハイエンドスマホに搭載されているCPUは、数年前のPC向けAPUより高性能?

近年のハイエンドスマホは「価格の高騰が顕著」だと感じている方も、この記事をお読みの方の中に多いのではないでしょうか。一方で性能の向上もまた顕著であり、最新のデスクトップパソコンに及ぶことはないとしても「数世代前のパソコンよりは高性能では?」と疑問に思う方もいるのでは。

仮に数世代前のデスクトップパソコンに匹敵する性能があり、その性能の端末が手のひらサイズになったならば「10万~20万円」という価格帯のハイエンドスマホは高くないのかもしれません。実際、数年前のパソコンと比べ、現在のハイエンドスマホはどの程度の性能を持っているのでしょうか?

ハイエンドスマホに搭載されるモバイル向けCPUの性能向上が顕著に

前提としてスマホに搭載されるモバイル向けCPUの性能は、年々向上しています。特にAppleのA18 ProやQualcommのSnapdragon 8 Eliteなどの最新チップは、その性能の高さが注目されています

Apple A18 Pro

(画像は筆者作成 ※製品画像はApple公式サイトより引用)

iPhone 16 ProとiPhone 16 Pro Maxに搭載されている「Apple A18 Pro」は、Appleの最新フラッグシップチップセットです。

6コアCPUを搭載しており、内訳としては2つの高性能コアと4つの高効率コアで構成。前世代のA17 Proと比較して15%高速化しつつ、20%の省電力化を実現しています。加えて、GPUは6コア構成です。

Apple A18 ProはPassmarkのベンチマーク数値によるとマルチスレッド性能で「12995」、シングルスレッド性能で「4154」と評価されています。

(画像は「Passmark」より引用)

この性能は「2024年現在の最先端のデスクトップ向けCPU、APU」と比較すると、もちろん物足りません。一方で数年前のエントリークラスのデスクトップ向けAPUと比較すれば「肉薄している」と言える数値感でしょう。

(画像は「Passmark」より引用)

たとえばRyzen 5 5600Gはマルチスレッド性能が「19875」、シングルスレッド性能は「3190」。Apple A18 Proはシングルスレッド性能では、Ryzen 5 5600Gを上回っていると言えます。

ちなみにRyzen 5 5600Gは「コスパに優れたCPU(APU)」として知られています。グラボなしである程度の性能を発揮できるAPUとして、バランスの取れた選択肢です。たとえばゲーム用途だとした場合、別途でグラフィックボードを用意しなくとも解像度や各種設定を調整すれば「そこそこの品質」ではリッチなPCゲームも遊べる性能が単体であります。

Snapdragon 8 Elite

QualcommのSnapdragon 8 Eliteは、先ほどご紹介した「Apple A18 Pro」を一部のベンチマークで大きく上回る性能を発揮していることから、2024年11月現在、最も注目されるハイエンドスマホ向けチップです。

注目ポイントは、マルチコア性能においてA18 Proを上回る結果が出ていること。AnTuTuベンチマークでは3,025,991ポイントを記録し、A18 Proの1,651,291ポイントを大きく上回りました。また、Geekbenchのスコアでもマルチコアにおいて約15%の優位を見せています。

Apple A18 ProがPassmarkのベンチマークにおいて、シングルスレッド性能でパソコン向けCPU(APU)を上回っていることを踏まえると、Snapdragon 8 Eliteも「かなりの性能」であると言えるかもしれません。

ハイエンドスマホのCPUは「数年前のパソコン向けAPU」に肉薄しつつある

先にご紹介した、Ryzen 5 5600Gは「エントリークラス向け」とは言え、2021年頃には「最もコスパの良いAPU」であり「そこそこの解像度で十分であれば、内蔵GPUで十分にゲームができるチップ」でした。

そして「2021年頃に売れていた、デスクトップ向けAPU」に、ハイエンドスマホのモバイル向けチップが肉薄しつつあるのが現状と言えるのではないでしょうか。

たとえばRyzen 5 5600GおよびRyzen 7 5700Gと、Apple A18 Proのベンチマーク数値を比較すると以下の通りです。

(画像は「Passmark」より引用)

・Ryzen 5 5600G:19878
・Ryzen 7 5700G:24555
・Apple A18 Pro:12896

なおRyzen 5 5600Gの上位モデルにあたるのが「Ryzen 7 5700G」です。8コア16スレッドCPUを備えています。 下位モデルであるRyzen 5 5600Gは、6コア12スレッドCPUです。
そのためRyzen 5 5600GとRyzen 7 5700Gのスコアの差は大きく、Apple A18 Pro(※6コア)もRyzen 7 5700Gには及びません。一方でコア数が同じRyzen 5 5600Gに対しては、モバイル向けチップでありながら「Apple A18 Pro」はかなり健闘していると言えるでしょう。

ちなみに、Ryzen 5 5600Gは6コア12スレッドCPU。Apple A18 Proは6コア6スレッドと言われています。

スレッドに開きがあることが、Ryzen 5600GとApple A18 Proを比較した際にマルチスレッド性能の面で差として表れていると言えるでしょう。しかしApple A18 Proはシングルスレッド性能では、数年前のAPUである「Ryzen 5 5600G」をすでに上回っています。シングルスレッド性能、マルチスレッド性能のさらなる向上も近年のモバイル向けチップの急激な性能向上を踏まえると十分期待されるでしょう。

スマホが「ミニPC」の役割を果たす未来が近い?

スマホはもはやモバイル端末にとどまらず、チップ単体の性能でみれば「ミニPC」としても使えるレベルに達していると言えるのではないでしょうか。ハイエンドスマホであれば、モニターやキーボードさえ繋げれば、PC向けソフトウェアが十分快適に動作する可能性が高いです。

こうしたチップ性能の向上は、中期的な視点でみると「スマホのミニPC化」を前提としたOS開発やアプリ開発に繋がりえる可能性もあります。たとえば2011年に開始された「Ubuntu Touch」は、スマホのミニPC化を目指したLinuxベースのOS開発プロジェクトであると言えます。

(画像は「Ubuntu Touch」公式サイトより引用)

Ubuntu Touchを搭載したスマホは、単体では普通のスマホとして利用可能。ディスプレイやキーボードを繋げば、スマホをミニPCとして利用可能。Ubuntu向けのアプリももちろん使えます。

もっともUbuntu Touchは国内では「有名ではないモバイル向けOS」に留まっており、少なくとも筆者が調べた限りでは、日本語ドキュメントも少数。「Google Pixel 3aにUbuntu Touchをインストールする方法」などが一定数日本のユーザーの間で共有されている程度であり、汎用的に使いやすいOSだとは2024年現在は言えません。

しかし、チップ性能の向上がこうした「スマホのミニPC化」を後押しする可能性は高いでしょう。今後、Ubuntu Touchのようなモバイル向けOSが発展することで、スマートフォンがパソコンの役割を担う日が来るかもしれません。

※サムネイル画像(Image:Wongsakorn Napaeng / Shutterstock.com)

オトナライフ編集部
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