スマホの「SIMロック」が“原則禁止”に、今後起こり得る問題点とは?

2021年1月27日、総務省の有識者会議がスマホのSIMロックを“原則禁止”にする方針を発表した。これにより、現在よりキャリアを乗り換えやすくなるとみられている。だが、そもそも「SIMロック」とは何なのだろうか? どうして今、総務省は「SIMロック原則禁止」に踏み切ったのか? 今回はスマホの「SIMロック原則禁止」へ至る過程と、今後起こり得る問題について解説しよう。

そもそもスマホの「SIMロック」って何なの?

 2021年1月27日、総務省は「スイッチング円滑化タスクフォース」の第4回会合において、スマホのSIMロックを“原則禁止”にする方針を示した。今後、大手キャリアで販売されるスマホにSIMロックが行われなくなれば(SIMフリー)、キャリア間の乗り換えがさらに活発になるとみられている。
 そもそもスマホの「SIM(シム)」とは、スマホ内部にセットされている電話番号などが記録された「ICチップ」のこと。スマホがSIMフリーであれば、SIMカードを交換することで簡単にキャリアの乗り換えが可能だが、「SIMロック」されたスマホの場合は、特定のキャリアのSIMカードしか利用できない。たとえば、ドコモで購入したスマホに、auやソフトバンクのSIMカードを差しても通信はできないため、キャリアの乗り換えを阻害していると考えられている。

「SIMフリー(SIMロックなし)」が当たり前の国では、SIMカードを差し替えるだけで簡単にキャリアの乗り換えができるようになっている

 それでは、なぜ大手キャリアは「SIMロック」を導入してきたのだろうか? かつて大手キャリアでは、スマホとSIMはセット販売されるのが当たり前だった。これは2年の長期契約(2年しばり)を条件にスマホを実質0円にすることで客を囲い込み、スマホの値引き分は通信料金で回収するビジネスモデルである。そのため、顧客がスマホ購入後すぐにMNP(携帯電話番号ポータビリティ)で他キャリアに乗り換えたり、スマホのローン途中で踏み倒したりすると、大手キャリアは大損害を被ってしまう。そこで、スマホに「SIMロック」をかけたり、契約途中で解約すると高額な違約金を課せるなどの対策が行われてきた経緯がある。 
 だが、このようなビジネスモデルこそがドコモ一強を生み、スマホ料金の高止まりや流動性を阻害している原因だとして、総務省はこれまでに様々な方針(ガイドライン)を示してきたのである。

2014年ごろにはMNPでキャリアを乗り換えると、スマホが一括0円(タダ)でもらえるうえに、数万円のキャッシュバックも付与されるという驚くべきキャンペーンが実施されていた。なかにはこれに目を付け数十万円荒稼ぎする者も……

これまで総務省はどんな方針を打ち出してきたのか?

 2014年以降、総務省はスマホの一括0円販売やSIMロック、高額な違約金などに対しては次々と厳しい措置を取ってきた。
 まず、2015年5月には「SIMロック解除」が義務化された。180日以上という条件はあったがキャリアのスマホをSIMロック解除できることは大きな変化であった。その後、2017年5月には「一括購入なら即日解除」「分割でも100日で解除」に変更され、2019年2月以降には中古スマホもSIMロック解除できるようになった。さらに、2020年4月にはスマホの分割払い中でもクレカ支払いなどで信用が確認できた時点で、SIMロックを即時解除することが義務化され、有料だった「SIMロック解除手続き料(3,000円程度)」も無料化されている。
 総務省ではそれ以外にも、2016年4月に「スマホの実質0円禁止」。2019年10月には電気通信事業法を改正してまで「スマホとSIMのセット販売によるスマホ購入の補助制度」を禁止した。これにより“分離プラン”の導入が義務付けられ、それと同時に分離プランでもスマホの値引き額上限は2万円までに規制されている。
 そして、2020年12月にはドコモがネット専用の格安プラン「ahamo(アハモ)」を発表するに至り、もはやスマホにSIMロックをかける意味はなくなっていた。このような状況を踏まえて、総務省はようやく「SIMロック原則禁止」を示したのであろう。

大手キャリアで販売するスマホがSIMフリー化されれば、格安なSIMフリー中古スマホを求める人は多くなるだろう(写真は秋葉原の中古スマホ有名店「イオシス」)

 スマホの「SIMロック原則禁止(SIMフリー化)」が行われれば、確かに他キャリアへの乗り換えは楽になるだろう。だが、それは必ずしもユーザーにとって良いことばかりではない。
 まず、スマホとSIMのセット販売なら、自分でSIMを差したり接続先(APN)設定をする必要はない。また、スマホが一括0円などで安く入手できなくなるため、今後は一括で高額なスマホを購入することになるだろう。もちろん、「ahamo」などで通信料金はかなり安くなるので、その差額でお手頃な中古スマホを安く買えばいいのだが、そこにも落とし穴がある。キャリアが販売するスマホの中には、自社回線の周波数にしか対応しない機種があり、SIMフリーであっても対応周波数の違いで電話やネット接続に不具合が出る場合もあるのだ。デジタルネイティブの若者なら自分でなんとか対処できるだろうが、何十年もドコモのガラケーを使っていたような人には、とても対処できまい。
 なお、今回の「スイッチング円滑化タスクフォース」の第4回会合では、「MNPのワンストップ化」「キャリア乗り換え時でもキャリアメールを継続利用」「eSIMの導入推進」なども盛り込まれている。今後もこのような動きから目が離せない。

「eSIM(イーシム)」とはスマホ本体に埋め込まれた書き換え可能な「SIM」のこと。物理的にSIMカードを抜き差しする必要はないので、キャリアの乗り換えが容易になる

参考元:「「SIMロック」はなぜ原則禁止になったのか、総務省の議論を振り返る(佐野正弘)」【Engadget日本版

●総務省「スイッチング円滑化タスクフォース」(公式)は→こちら

文=すずきあきら/編集・ライター

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