「アップルがiPhoneにプライバシー強化機能を導入したことによって、Snapchat・Facebook・Twitter・YouTubeは2021年下半期だけで推定98.5億ドル(約1兆1,200億円)の収益が消し飛んだ」と、アメリカ経済紙のフィナンシャル・タイムズが衝撃的なニュースを報じた。ともかく1兆1,200億円という金額のインパクトが大きすぎるが、一体なぜそのような事態になったのだろうか。そして、今後各社はどのような戦略へと舵を取ることになるだろうか。
「Appにトラッキングしないように要求」を選んだ人が大多数
現地時間の2021年4月26日、Appleは「iOS 14.5」をリリースした。それまでのiOSとの最も大きな違いは、アプリが広告のためにユーザーを追跡する際、ユーザーに許可を求める必要がある「App Tracking Transparency(ATT)」が有効になったことだ。
2020年にアップルが、ユーザーの個人情報保護を目的としたフレームワークATTを導入することを発表した際、Facebookは大手新聞各社にアップルを非難する全面広告を掲載した。というのも、従来のインターネット広告市場では、ユーザーの個人情報に基づき広告が表示されるターゲティング広告が主流だったが、アップルがポリシー変更すればターゲティング広告が困難になるため、アプリ側の広告収入は大きく減少することになるからだ。収入のほとんどを広告収入に頼っているFacebookにとって、広告を出してでもアップルの行動を阻止したいという思いは当然の反応とも言えるだろう。しかし大々的なアピールも虚しく、2021年4月にリリースされたiOS 14.5でATTは実装されたのだった。
ユーザーの個人情報保護を目的としたフレームワークATT導入から3カ月経過した2021年7月には、「開発者や広告主の収益が15~20%減った」という報道もなされている。その急激な変化を示すように、フィナンシャル・タイムズでも「広告テクノロジー企業のLotameの分析結果によると、Snapchat・Facebook・Twitter・YouTubeのSNS大手4社が2021年第3四半期と第4四半期に失った収益は売上高の12%にあたる推定98.5億ドル(約1兆1,200億円)」と報じられている。Snapchatは売上高の13.2%、Facebookは売上高の13.2%、YouTubeは売上高の7.7%、Twitterは売上高の7.4%を失ったとみられているという。とくにFacebookは売上高の13.2%を失ったとみられており、会社の規模も相まって、実際に失った額は約80億ドル(約9,100億円)を超えるようだ。
大打撃を受けたことが明らかとなったFacebookは10月28日、社名を「Meta」へと変更することを明かしたことは記憶に新しい。今後は社名の由来ともなっている「メタバース(オンライン上に構築された3DCGの仮想空間)」構想に注力していくようだ。もしかするとFacebookも、アップルのATTによって広告事業への行き詰まりが現実味を増したことで早急なメタバースへの方向転換を余儀なくされたのだろうか…。
またTwitterやYouTubeでも、Twitterでは様々な課金コンテンツが計画されていることが相次いで報じられ、YouTubeもユーザーをYouTube Premiumへと誘導する施策に余念がないように感じられる。どこも新たなビジネスモデルの構築に全力を注いでいる様子が伺える。
アップルの意向により、巨額の売上高を失うこととなったインターネット広告市場。現在の各社の動きを見る限り、今後ネット広告のかたちは大きな変化を遂げることになるかもしれない。アップルの行ったことは私たち消費者にとってプラスとなったのかマイナスとなったのか。今後の動向にも注目していきたい。
参照元:大手SNSの収益「1兆円以上」がiPhoneのプライバシー強化機能で消し飛んだという調査結果【GIGAZINE】
※サムネイル画像(Image:support.apple.com)