光回線やADSL回線が普及する以前、パソコン通信や初期のワールド・ワイド・ウェブ(WWW)を楽しむ際には「灰色のディジタル公衆電話にモデムとパソコンを持ち込んで接続していた」時代があったことをご存じでしょうか? 1980年代後半~1990年代初頭に書かれた小説などの中には、公衆電話を用いてパソコン通信を行うシーンが実際に登場したりもします。
そんな「パソコン通信ができる公衆電話」な、ディジタル公衆電話。実は2024年現在でも、各地にディジタル公衆電話は残存しています。ということはモデムやパソコンを持ち込んだら、いまでもダイヤルアップ接続ができるのでしょうか? 今回は「灰色のディジタル公衆電話でネット接続する」のはいまでもできるのか?を解説します。
公衆電話には「緑色」だけでなく「灰色」がある
まず公衆電話には「アナログ公衆電話」「ディジタル公衆電話」の2種類があります。簡単な見分け方は色が「緑色」か「灰色」か。一般的にディジタル公衆電話は灰色です。特に1990年代前半はディジタル公衆電話を利用して、公衆電話からダイヤルアップ接続でパソコン通信に接続することは決して珍しいものではありませんでした。
ディジタル公衆電話の歴史
正式にディジタル公衆電話が登場したのは1990年のことです。ディジタル公衆電話はISDN回線を利用しており、ラップトップパソコンなどを公衆電話に接続することでデータ通信や画像通信を行うことができるようになりました。
なお1990年は、まだWindows 95が登場する以前の時代です。しかし「パソコン通信」は大きく普及しており、BBSなどのサービスが当時すでに人気を博していました。
なおディジタル公衆電話の登場以前は、ISDN回線ではなくアナログ電話回線を用いたパソコン通信への接続が一般的でした。ISDNの登場以前は「接続中は電話が使えない」のが当たり前でした。今日のインターネットに繋がる歴史の最初期は、いわば電話のインフラを間借りして通信を行っていた時代が長かったと言えます。
「灰色の公衆電話でネット接続する」際に必要なものと手順
灰色のディジタル公衆電話でネット接続する場合、2024年現在ではあまり手にすることがないような製品や専用サービスの契約が必要となります。
パソコンとモデム、電話線
公衆電話に持っていくノートパソコンと電話線を繋ぐモデムがまず必要です。またモデムと公衆電話を繋ぐための電話線も必要となります。この3つを揃えたうえで、公衆電話とパソコンをモデム及び電話線を介して接続することとなります。
ダイヤルアップ接続の契約
続いて公衆電話でのダイヤルアップ接続に対応している「ダイヤルアップ接続サービス」に加入する必要があります。筆者が確認した限り、公衆電話でのダイヤルアップ接続に対応しているサービスには「@nifty」が挙げられます。
ただし2024年1月からのNTTの設備変更に伴い、ダイヤルアップ接続の接続品質は「変わる」と明言されています。また2024年1月以降、INSネット「ディジタル通信モード」の終了に伴ってディジタル公衆電話でのデータ通信は地域ごとに段階的に終了しているのが現状です。
「灰色の公衆電話でネット接続する」のはいまでもできる?
結論から言えばINSネット「ディジタル通信モード」の終了に伴い、2024年1月以降、ディジタル公衆電話でのデータ通信は地域ごとに終了しています。
ただし「切替後のINSネット上のデータ通信(補完策)」(※2028年12月31日まで)がすでに提供されており、補完策を利用することで「灰色の公衆電話でのネット接続」は2024年8月現在でも可能です(※補完策は「利用する機器によっては通信に影響が発生する」とNTTが明言している点にご注意ください。確実で安定性が高い接続が保証されているものではありません)。
2024年8月現在、灰色の公衆電話でネット接続するのは「INSネット上のデータ通信の補完策」に依存しています、同サービスは新規申し込みを2024年8月31日に終了。2028年12月31日にサービス終了を予定しています。
つまり2024年8月現在から新規にダイヤルアップ接続の契約をし、公衆電話でネット接続するのはハードルが高い行為であるとは言えるでしょう。加えてサービス終了に向け、徐々にディジタル公衆電話の撤去などが進む可能性も高いです。
もしもお手元にモデムや電話線があり、ダイヤルアップ接続も可能な方はいまのうちに「グレーの公衆電話」で遊んでみるのも良いかもしれません。ただし補完策に依存した通信のため、通信できないトラブルなどが発生する可能性がある点はご留意ください。
※サムネイル画像は(Image:「photoAC」より引用)