生成AIを活用した「AI広告」や「AIイラストを利用した楽曲のジャケット」が炎上するケースなどが、国内外で続いています。
国内の炎上事例として、代表的なのは人気バンド「ゴールデンボンバー」の楽曲にAIイラストが使用されたケース(2024年3月)。炎上に際して、同バンドの鬼龍院翔さんは「あなた自身もクリエイターなんだから使うべきではない、あなたの楽曲が音楽生成AIの学習に使われたら嫌ですよね?」という声が寄せられたことを明かしています。
生成AIは「クリエイターなんだから使うべきではない」ものなのでしょうか。生成AIを活用することはクリエイターへの冒涜ではないかという声もまた確かに国内外で広がっていることも事実です。
今回は批判されるAI広告やAIイラストの例などを改めて見ていきつつ、逆に生成AIを使っていながら「炎上していない」ケースも見ていきましょう。
生成AIを活用したAI広告やAIイラストの炎上例
まずは生成AIを活用したAI広告やAIイラストの炎上例をいくつかご紹介します。
日本マクドナルドが「AI広告」で炎上
2024年8月17日に日本マクドナルドが公式Xにアップロードしたプロモーション動画では、『Kaku Drop 架空飴』さんが手掛けたAIイラストとアニメーションが利用されています。
このAI広告に対しては「単純に不気味」「ポテト食べる気を無くした」などの批判的な声が多数。
マクドナルドのCMは、たとえば2023年9月に公開された「ポテナゲ」のWebCMのイラスト・演出をイラストレーター 『浦浦 浦ちゃん』さんが担当。このWebCMは国内に留まらず海外でも極めて高い評価を得るなど、高いクリエイティビティが評価されました。
イラストレーターの方を全面的に起用したWebCMで世界的に評価を集めた企業でありながら、生成AIを使った広告キャンペーンも行うことに「がっかりした」という見解もありました。
米トイザらスが「AI広告」で炎上
AI広告で「炎上」しているのは、日本マクドナルドだけではありません。たとえば米トイザらスはOpenAIの動画生成ツール「Sora」を用いて、生成AIを利用した動画広告を展開。創業者のチャールズ・ラザラス氏が見た夢とブランド立ち上げの着想を描いた広告でした。
この広告については「子どもの想像力を題材にした広告を、魂のない生成AIで制作した」という点について、玩具業界に対する侮辱であるという批判などが寄せられました。
ゴールデンボンバーが「AIイラストを使用したジャケット」で炎上
冒頭でも述べた通り、2024年3月には人気バンド「ゴールデンボンバー」が楽曲のジャケットに生成AIを用いたことで炎上。最終的に楽曲のジャケットは手書きと見られるイラストに差し替えられました。ゴールデンボンバーに対してネット上からは「クリエイターなんだから生成AIを使うべきではない」などの批判の声が寄せられました。
この炎上について同バンドの鬼龍院翔さんは「AI学習に使われて似ている曲が他の人の手によってできたとしても、それは僕も同じことで、今までの人生の中で聴いてきた音楽を学習して似ている曲を作っているに過ぎないと思っています」と見解を表明。
この見解を裏付けるように、鬼龍院翔さんは権利を持つゴールデンボンバーの全楽曲のデータファイルも公開。「是非音楽生成AIに流し込むなり学習させるなりしてください。」との呼びかけも行っています。
生成AI活用は「クリエイターへの冒涜」であるという声は大きい
ゴールデンボンバーの鬼龍院さんは「クリエイターなんだから生成AIを使うべきではない」という声に対しては、いわば真逆の見解を持っていると言えます。生成AIに対して前向きな見解を持っており、その証明として全楽曲のデータファイルの公開も実施しています。
つまりゴールデンボンバーの鬼龍院さんは、生成AI活用に対して「クリエイターへの冒涜」とは考えていないと言えるでしょう。しかし生成AI活用は「クリエイターへの冒涜」であるという声が非常に大きいこともまた事実です。そうした生成AIに対する極めて厳しい声の例も、いくつかご紹介します。
イラスト制作アプリ「Procreate」は「製品にAIを搭載しない」と表明
たとえば世界的なイラスト制作アプリ「Procreate」は「生成AIは私たちの未来ではない」として、製品に一切生成AIを取り入れることはないと明言しています。「Procreate」はプロフェッショナルや意欲的なアーティストを対象として提供されているイラスト制作アプリ。同社CEOのジェームズ・クーダさんは「個人的に生成AIは不愉快」としたうえで、以下の3つの方針を掲げています。
・「NO 生成AI」
・「あなたの作品は、あなたのもの」
・「個人情報を守ることに誇りを持っている」
署名「画像生成AIからクリエイターを守ろう」も広まる
ネット上では「画像AI生成からクリエイターを守りましょう」というオンライン署名も立ち上がっており、多数の署名を集めています。この署名活動では、AI生成による無断学習や「一瞬でAIに駆逐されるゴミ」などクリエイターに対する侮辱の声などを問題視。「本来のクリエーターがいなくなったとしたら、そこをもとにして生成しているAI生成画像にも未来はありません。」と明言しています。
そのうえで「①画像・動画・音声・音楽・文章等の生成AIのような機械学習に用いたデータ元と同様の利用形態の生成物を伴う著作物の利用は、著作権法30条の4の権利制限の対象外とすること」などが求められており、署名活動を通じてAI法に関する議論も盛り上がりを見せています。
生成AIは著作者の利益を不当に害するもの?
生成AIは革新的な技術である一方「クリエイターの利益を不当に害するものであり、AI法を制定すべきものである」という見解も広がりを見せています。文化庁は「AIと著作権に関する考え方」素案をすでに公表しており、素案に対するパブリックコメントも募集したうえで結果を公表しています。
パブリックコメントで特に目立ったのは「著作権者の利益を不当に害する場合でなければAIによる著作物の無断学習が可能」とする著作権法の権利制限規定(30条の4)について。著作権者が自らの著作物を生成AIに学習させたくない場合でも、「AIと著作権に関する考え方」素案では規定からの除外が考えられないとされています。この点については批判的な声が多く、今後も議論が進むものと見られます。
生成AIの広告が好意的な反応を得ているケースもある
なおAI広告の中には、炎上せず、好評を得ているケースもあります。その一例にはマッチングアプリ「オタ恋」のAI広告が挙げられます。オタ恋のAI広告は2023年5月からスタートし、運営会社であるエイチエムシステムズは「男性は1.5~2倍程度、女性は3~7倍程度入会者が増加した」としています。
オタ恋のAI広告は「肥満体系の男性と綺麗な女性」の組み合わせのものが多く、その他には「筋肉ムキムキの男性と綺麗な女性」といったパターンのものもあります。
オタ恋の広告を一種のミームとして真似するインフルエンサーが現れているほか、筆者が確認したところオタ恋の広告だけを徹底的に分析するブログの存在なども確認できました。
ミームになるなど好意的に受け入れられるAI広告として、オタ恋は代表的なケースであることは間違いありません。オタ恋は「今後もAI広告やAIイラストを活用する場合の先行事例」として研究対象になる可能性が高いでしょう。
※サムネイル画像は(Image:「オタ恋【公式】(@otakoi_jp)」公式Xより引用)