2024年9月に大きく報じられたレバノン各地での「ポケベル」爆発。レバノンのシーア派組織ヒズボラのメンバーが所持していたものが爆発したもので、周辺にいた人たちを含めて多数の死傷者が出た凄惨な事件となりました。
多くの死傷者が出てしまったこと、本来親しみやすい端末であるポケベルが爆発物となってしまったことは悲しむべきことですが、あえて爆発以外のことに目を向けると「軍事上の重要な通信においても、目的次第でポケベルは現役の通信機器になり得ている」こともまた事実でしょう。
国内に目を向けると、ポケベルは2019年にサービスが終了済み。しかし2024年現在でも、ポケベル電波は防災無線に姿を変えて活用されていたり、病院内など限られた空間での文字コミュニケーションに活用されていたりします。
用途次第では、国内外でまだまだ現役の通信手段となり得る「ポケベル」。その特徴や活用例等を見ていきましょう。
2019年に国内でのポケベルサービスは完全に終了
1990年代に最盛期を迎えたポケベル。受信専用の通信機器で、数字を使ったメッセージ送信が特徴です。たとえば、「おはよう」は0840、「愛してる」は114106、「至急電話」は49106といった具合に、数字の語呂合わせやポケベル暗号でコミュニケーションが行われました。
全盛期の1996年に契約数が1,000万台を超え、特に女子高生の間で流行。ポケベルは公衆電話からメッセージを送るスタイルで、ビジネスシーンでも営業マンとの連絡手段として重宝されましたが携帯電話やPHSの普及により利用者は減少し、2019年にはサービスが終了しました。
なお、現在はWi-Fi回線やPHS回線を使う医療現場用のポケベルが現役で使われていますが、利用者は約1,500人ほどといわれています。
事業継続した「東京テレメッセージ」はポケベル電波を防災無線に事業転換
2019年のポケベルサービスの終了時点で、国内でポケベル事業を継続していたのは「東京テレメッセージ」1社のみ。その東京テレメッセージは2019年以後、ポケベルサービスそのものは終了したものの、ポケベル電波(280MHz)を活用した事業を継続しています。
同社はポケベル電波を防災無線に活用し、自治体の防災無線を「行政無線よりも受信の確実性が高いもの」へと変革しています。
「ポケベル電波」と「防災無線」の親和性
ポケベルサービスが終了した後も、その電波は新たな形で生き続けています。東京テレメッセージ株式会社は、ポケベルの電波を利用した防災無線サービスへと事業を転換しました。ポケベルの電波は「より遠く(到達性)、より確実に(受信性)、建物内でも(浸透性)」届くという特性を持っています。この特性は、災害時の情報伝達手段として非常に有効です。特に、家屋の密閉性が高まった現代において、従来の屋外放送では伝わりにくくなった防災情報を、確実に各家庭に届けることができるのです。
行政無線に対するポケベル電波の優位性
ポケベル電波が使っているのは280MHz帯周波数。伝送負担が少なくて済み、建物の中でも届きやすいという特徴があります。さらに通常の音声の行政無線は音声システムを使用していますが、ポケベルで使われているのは当然ながら文字システム。それを合成音声で放送するため、音声劣化の心配もいりません。
「病院向けポケベル」も2024年現在でも活躍中
先述した通り、2024年現在、ポケベルは主に病院向け通信システムとして活用されています。医療現場では、電磁波の発生が少なく、建物内でも受信しやすいポケベルの特性が重宝されています。特に、緊急時の連絡や医療スタッフ間の情報共有に利用されており、携帯電話やスマートフォンが使用できない環境下でも確実な通信手段として機能しています。このように、一般向けのサービスは終了したものの、特定の分野では依然としてポケベルの技術が重要な役割を果たしているといえるでしょう。
「位置情報の特定が難しい」点も特定の場面で強みになり得る
国内では「防災無線」や「病院向けの機器」へと姿を変えたポケベルですが、冒頭でも述べた通り、海外では軍事目的の通信機器としてポケベルが現役で使用されるケースもあります。
冒頭でも触れましたが、ポケベル爆発事件が発生したレバノンのシーア派組織ヒズボラは、イスラエルへの警戒からメンバーに位置情報が特定されるスマホを持ち歩かず、代わりにポケベルを持ち歩くように指示していたほどです。ポケベルは受信専用機のために位置情報が特定されないため、サイバー攻撃の対象になりづらいという点は逆に強み。
つまり軍事目的など「位置情報の特定を困難にしたうえで、通信も行う必要がある」場面ではポケベルは現役の通信手段になり得ます。ただし紛争下ではそのポケベル本体が攻撃の対象になり得るケースがある点には警戒が必要といえます。