さいたま【首都圏格差シリーズ】憧れの街の意外な現実

平成の大合併を経てさいたま市中央区となった旧与野市。その存在は県都浦和と県の中心都市大宮の間に挟まれ、まったく目立つことがなかった。しかも合併前の段階で全国で6番目に小さい市でありながら、県内には全国最小の蕨市と2番目に小さい鳩ヶ谷市があったことで、弱小都市というカテゴリーですらそんなに注目されることはなかった(埼京線開通前は鉄道駅不毛地帯だったことのほうが、むしろ有名だった)。土着の旧住民には「鉄道が敷設させるまでは浦和や大宮より人口が多く街が栄えていた」自負があるものの、与野の存在感の薄さの前にはどうすることもできず、歯噛みするほかなかった。
それだけに、平成の大合併で旧市域が「さいたま市中央区」となったことは、実態が伴っているかどうかという疑問はあるものの、住所表記上はおよそ一世紀半ぶりに浦和と大宮を押しのけてセンターに返り咲いたわけで、与野旧住民にとってはようやく溜飲を下げることができただろう。

この街のどこに文化の香りが漂っているのか?

さいたま【首都圏格差シリーズ】憧れの街の意外な現実

(Image:Osugi / Shutterstock.com)

さいたま市が浦和市、大宮市、与野市の合併協議の顛末を書いたところで、地域の住みやすさが浮き彫りになるわけでもないので割愛するが、大都市に挟まれた弱小与野がとった戦法は巧妙だった。分がありそうな浦和に味方することで結果的にさいたま新都心の中心を手に入れ、「行政の浦和、経済の大宮、文化の与野」という立ち位置を得ることで天下三分の計を実現したのだ。
では「文化の与野」がいかほどのものか。中央区に所在する文化施設は、彩の国さいたま芸術劇場、さいたまスーパーアリーナ、図書館が分館も含めて3館、それにコミュニティセンターが4ヵ所。個人経営のギャラリーはかろうじて3軒ほど発見したが、美術館、博物館の類いはひとつもない。果たしてこれが「文化の与野」の正体である。唯一書店については、県下最大規模のブックデポ書楽やイオンモール与野にはヴィレッジヴァンガードもあり、汚名返上といえなくもないが、店舗数自体は多くない。そもそも「文化の与野」は、たまたま旧市内にさいたま芸術劇場があったことから始まったもので、実態なんて伴っちゃいないのだ。
文化は金にならない、と思っている人はいまだに多い。でもその認識は正しくもあり間違ってもいる。ぶぎん地域経済研究所の試算によると、中央区にあるさいたまスーパーアリーナの経済波及効果は年間で394億円、3644人の雇用を生み出す効果があるそうだ。もちろんこれは、交通アクセスがいい巨大イベント会場だからこその成功例であり、儲からない文化施設だってある。ただ、せっかく文化都市を標榜しているのだから、行政が本腰を入れて策を打ち出してもいいんじゃないかと思うのだ。

中心市街が転移して街全体がボヤけている

さいたま【首都圏格差シリーズ】憧れの街の意外な現実

(Image:picture cells / Shutterstock.com)

冒頭にも書いたように、旧与野市はとても小さい街だった。それは仕方がないことだけれど、小さな街でありながら発展する場所が時代の経過とともにあちこち移動してしまったことは、悲劇というほかない。江戸時代に宿場町として発展し盛大に市が立った場所でもあった本町通り沿いの旧市街、昭和に入ってから与野駅の開業や国道17号の整備で遅れて発展した落合エリア、それに加えて平成に入ってからはさいたま新都心という新たなエリアが発展中である。中心市街が移り変わってしまうと、街の賑わいが分断され旧市街が廃れてしまう。それは決していいことではない。
さいたま新都心駅西側一帯は中央区に所在する。合同庁舎、病院、ホテル、そしてイベント会場と様々な形で人が集まる施設が整っている。そこに集まる人たちに向けて、何がアピールできるか考えた時、何百年と変わらず栄えている中心市街と、寂れた旧市街ばかりが目立つ街並みでは、やはり前者のほうが魅力的に見える。中央区の存在感がいまひとつなのは、大宮と浦和の2大都市に買い物や遊びを依存できるロケーションも然りだが、そういったことも影響している気がする。

文=

引用元:首都圏格差 首都圏生活研究会 (著)(三交社刊)

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