2021年1月、共同通信によれば、井上信治クールジャパン戦略担当相が「コスプレの著作権ルール化」に言及したため、ネットでは“国はコスプレに口を出すな”“コスプレ文化が衰退する”とプチ炎上する事態になった。だが、そもそも人気アニメや漫画、ゲームなどの衣装を着て楽しむコスプレは違法なのだろうか? 今後、自由にコスプレを楽しむことはできないのだろうか……。
なぜ今「コスプレ著作権ルール化」なのか?
「コスプレ」とは「コスチューム・プレイ」という和製英語の略。分かりやすく言えば人気アニメや漫画、ゲームのキャラクターなどの衣装を着て“仮装”し、同人イベントで披露したり、写真を撮って楽しむことである。ただし、人気キャラクターには著作権があるため、昔からコスプレの著作権に関してはさまざまな法律論争があった。
そんななか共同通信は、2021年1月に井上信治クールジャパン戦略担当相が「コスプレの著作権ルール化」に乗り出すと報じた。そのため、ネットでは「国がコスプレに口を出すな」「コスプレ文化が衰退する」といった声が噴出したのである。これに対し、井上大臣は「コスプレ文化をさらに盛り上げていくために、法的問題が生じないための方策を整備する」と釈明することに……。つまり、今回の発言は「コスプレ文化の世界的な広がりを受けて、問題が起きないようにルールを考えましょう」という趣旨だったらしい。それにしても、そもそもコスプレは違法なのだろうか? コスプレの何が問題だというのだろうか? 今回はこの報道に対する「弁護士ドットコム ニュース」の記事を元にコスプレについて考えてみたい。
井上大臣の「コスプレ著作権ルール化」発言を“国による規制”と捉えてた人も多いようだが、そもそもコスプレは著作権侵害に当たるのだろうか? 文化庁の「著作権制度の概要」によると、現在、著作権は以下のように規定されている。
【1】著作権:著作者に与えられる権利のこと
【2】著作者:著作物を創作した人のこと
【3】著作物:思想又は感情を「創作的」に表現したもの
つまり、人気キャラクターの衣装は上記の著作物に含まれるので、そこに著作権が発生する。当然、他人の著作物を勝手に使ったコスプレは著作権を侵害することになる。皮肉なことだが、衣装のデキが悪く誰も何のキャラクターか判別できない場合はセーフで、誰が見ても特定のキャラクターだと判別できるデキの良いものは著作権侵害に当たる可能性があるのだ。「じゃあコスプレは違法なの?」と思うかもしれないが、そう単純ではない。実は著作権法では「私的使用のための複製」が認められているので、個人的に楽しむだけならコスプレ=違法というわけではないのである。
営利目的じゃなくても著作権侵害に当たる場合も?!
最近は、メーカーが著作者に許諾を取って正式に販売されているコスプレ衣装もあるが、自作した衣装については注意したい部分もある。そもそも人気キャラクターの衣装を作ることは、許諾を受けないまま著作物を複製することになるので、自分で着て楽しむ分には私的利用の範疇だが、他人に貸したり販売すると著作権侵害に当たる可能性が出てくるのだ。自作したコスプレ衣装は自分で着るようにしよう。
もちろん、がんばってコスプレ衣装を制作すれば、同人イベントなどで披露したくなるだろう。だが、人前でコスプレを披露する行為については、専門家の間でも法的解釈が分かれており、100%合法とまでは言えないのが現状である。とはいえ、井上大臣の発言にもあるように、コスプレはもはや日本の文化となっており、「営利目的でない限りは私的利用の範囲に留まる」とする意見も多いのだ。
同人イベントではコスプレイヤーの写真を撮影するカメラマンも多い。いい写真が撮れればその写真をネットにアップロードしたくなるだろう。だが、これは2つの意味で問題になる場合がある。
まず、コスプレイヤーには肖像権があり、勝手に写真をネット上に公開されない権利がある。中には家族や友だちには内緒でコスプレしている人がいるかもしれない。撮影した写真を公開していいかどうか、必ず本人に許可を受ける必要がある。次に、著作権には「公衆送信権」も含まれているため、コスプレ写真をネットなどで公開してしまうと「私的範囲」を超えてしまう可能性が出てくる。ただし、これはあくまでも法律的解釈であり、実際には問題になる可能性は低いのだ。その理由とは……。
曖昧なままにしておくほうがいいことも……
厳密に法律的な解釈をすると色々と問題がありそうなコスプレが、長年同人イベントなどで楽しまれてきたのには理由がある。それは、著作権が「親告罪」であることが影響していると考えられる。親告罪は、著作者が告訴しない限り問題にならないからだ。そもそもコスプレは、その作品のファンが楽しむものなので、作者が自分の作品を楽しんでいるファンにクレームをつけるとは考えにくい。つまり、現状のコスプレは著作者が“あえて見逃している”だけで、法律的にはともかく、非常に日本的な曖昧さの中でギリギリ成立しているものなのである。
おそらく井上大臣の発言は、この辺りの法整備を整えようという趣旨だったのであろう。だが、これまで法律ではなく“著作者の黙認”という形で守らてきたコスプレを、事情をよく分かっていない国が法律で縛るとやぶへびになりかねない。ネットで「国はコスプレに口を出すな!」と声を挙げている人たちは、この辺りの事情をよく分かっているがゆえに、下手にルール化されることを恐れているのである。
いかがだろうか? 現在はコロナ禍の影響で大型同人イベントも開催できない状況が続いているが、いつの日か自慢のコスプレをハレの舞台で披露する日がやってくるだろう。それまでの間、コスプレイヤーやそれを撮影するカメラマンなら、お互いのためにもコスプレにまつわる法律などを少し調べてみてはいかがだろうか?
参考元:「コスプレ著作権ルール化へ 政府、海外展開を後押し」【共同通信】
参考元:「コスプレは「著作権侵害」になるの?「ルール整備」以前に押さえておきたい重要ポイント 福井健策弁護士が解説」【弁護士ドットコム ニュース】
●著作権制度の概要:文化庁は→こちら