米Appleが2023年4月に参入した銀行事業。「年率4.15%」という高金利で日本からも大きな注目を集めましたが2024年9月現在、日本上陸の予定は未定。
また2024年9月のAppleの新製品発表会などでも、銀行事業や金融事業に関して際立った新たな発表などはなく「アップル銀行は今どうなっているのか」「将来的な日本上陸はあり得るのか」気になっている方は多いのではないでしょうか?
実はAppleとゴールドマン・サックスの提携が終了に向かう中、2023年時点の華やかなイメージと異なり、2024年時点のアップル銀行の先行きは若干不透明感が増しています。アップル銀行の現状について解説します。
「年利4.15%」のアップル銀行
2023年にスタートしたアップル銀行は、Appleとゴールドマン・サックスが提携して立ち上げた「普通預金サービス」です。利用対象者は米国在住のApple Card(Appleのクレジットカード)所持者で、先述した通り、4.15%という高金利が注目を集めました。
ちなみにアップル銀行は「普通預金サービス」であり、実際にはApple Card上にゴールドマン・サックスの普通預金口座を開設して入金しておくと、年利4.15%の対象になるものです。つまり口座そのものは「ゴールドマン・サックス」のものです。そして、年利4.15%で大きな話題を呼んだアップル銀行の「その後」や「日本進出の噂」がまったく聞こえてこない理由には「アップルとゴールドマン・サックスの提携が終了に向かっているとみられること」があると見られます。
フィンテック戦略で苦戦するアップル
Appleは普通預金サービス「アップル銀行」が反響を呼ぶ前から、フィンテック領域に積極的に乗り出していました。その代表格が「Apple Pay」(2014年開始)。さらに2019年にはゴールドマン・サックスを発行元とする「Apple Card」を発表してクレジットカード事業にも参入しています。
そして、Apple PayやApple Cardはいずれも消費者向けのフィンテック事業に位置付けられます。iPhoneやApple Watch、MacBookなどを購入するユーザーは一般的に裕福な層が多く、なおかつApple製品を一度使い始めると他社製品に乗り換えないケースが多いです。
つまりAppleがすでに囲い込んでいる「裕福かつ優良なユーザー」にフィンテックサービスをあらゆる形で提供するという狙いの元、複数の事業がスタートしたと考えるのが自然です。
しかし残念ながら、Appleとゴールドマン・サックスの提携は終了に向かう見込みです。Appleがゴールドマン・サックスの提携終了を申し入れたと言われているのは2023年11月。その後約1年~1年3カ月以内に契約を終了する提案を送ったと言われています。つまり、提携終了予定は2024年11月~2025年1月の可能性が高いと言えます。
信用度が低い顧客にも大量に発行されたApple Cardの誤算
Appleは「Apple Card」や「アップル銀行」の打ち切りを予定していないと報じられてはいるものの、ゴールドマン・サックスとの提携が終了に向かっていること自体は間違いないでしょう。提携が解消に向かう背景には、Apple Cardが「信用度が低い顧客にも大量発行されたこと」が挙げられます。
Apple製品を愛する顧客は「アップル製品を長く使い続ける傾向が強い」ものの、実は経済的に裕福であるとは限りません。海外では「5人に1人が借金してでもiPhoneを買う」と言われており、Apple製品を買うためにローンを組むケースも多いです。
Apple Cardの保有者がアップルのデバイスを購入するために組んだローンの多くは「焦げ付いた」と言われており、Apple Card関連の損失は10億ドル(約1,420億円)に膨れ上がっているとも報じられています。
「Apple Payで後払い」も終了
Appleが消費者向けに立ち上げたフィンテックサービスは、多くが苦境に陥っているのが現状です。たとえばApple Payの後払いサービスとして立ち上げられた「Apple Pay Later」は、米国でのサービス開始から一年未満でサービスを終了しています。
このサービスは50~1000ドルの製品を購入する際に、4回に分けてローンを組めるものでした。Appleは依然、ユーザーに対して柔軟な支払いオプションを提供することに意欲的ではあるものの、Apple Cardのローンの焦げ付きなど「後払い」「ローン」などにおいて失敗が相次いでいる印象はぬぐえません。
アップル銀行の日本進出は「当面先」か
アップル銀行が将来的に日本進出をするとしても、それは少なくとも「ゴールドマンとの契約解消プロセスが完了してから」でしょう。なおかつAppleにとってはゴールドマンに代わるパートナーを見つけ、なおかつそのパートナーのもとで日本進出が可能な状態になる必要があります。
つまり「アップル銀行」の注目度が高いにも関わらず、日本進出の噂が聞こえてこないのは「日本進出できる状態ではないから」だと言えます。なお、一部ではゴールドマンが撤退するApple Cardの事業について、JPモルガンが引き継ぐことを検討しているとの報道もあります。とはいえゴールドマンの撤退プロセスと、新パートナーとの契約プロセスを同時に進めるのにはしばらく時間を要するでしょう。
アップル銀行の日本進出は実現するとしても、まだ当面先となる可能性が高いのではないでしょうか。
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