日本銀行が2024年3月に政策金利の引き上げを表明して以降、長らく低金利・ゼロ金利で厳しい経営状況にあった金融機関が、収益を改善しつつある。一方、貸出金利の引き上げに伴い、「借り手=企業側」は割安な手数料や利便性の高さを強みとする「ネット銀行(新形態の銀行)」に注目が集まっている。台頭してきたネット銀行の実態を明らかにするため、帝国データバンクの「全国企業『メインバンク』動向調査」の結果をみてみよう。
シェア拡大が続くネット銀行、利用する企業は1万社を突破!
帝国データバンクは、2024年10月末時点の企業概要データベース「COSMOS2」(約147万社収録、特殊法人・個人事業主含む)をもとに、企業が「メインバンク」「サブバンク」と認識する金融機関を分析した。そのうち、メイン・サブバンクの立ち位置を問わず、主要なネット銀行10行[※]を取引金融機関として利用する企業は、2024年調査時点で1万3209社にのぼることが判明した。
[※] 楽天銀行、PayPay銀行(旧:ジャパンネット銀行)、住信SBIネット銀行、GMOあおぞらネット銀行(旧:あおぞら信託銀行、2019年調査以降)、セブン銀行、イオン銀行、ソニー銀行、大和ネクスト銀行、ローソン銀行、auじぶん銀行の10行
2014年時点では3000社に満たなかったものの、対面営業の自粛を余儀なくされたコロナ禍以降は、法人でもネットバンキングの利用機会が増加し、2023年には1万社を突破。その後も順調に取引件数を伸ばしている。
ネット銀行をメインバンクに選ぶ企業も増えており、メインバンクシェアは2024年で0.28%(前年比+0.06pt)、社数で4197社を数えた。10年前(2014年)と比較すると、5.4倍に増加している。
一方で、他の金融機関は「メガバンク」が前年比-0.25pt、「第二地方銀行」が-0.06pt、「信用組合」が-0.02ptと、いずれもシェアが低下した。既存の金融機関が苦戦を強いられる中、ネット銀行の伸長は目を見張るものがある。どのような方法で取引件数を増やしているのだろうか。
ネット銀行の取引社数トップは「楽天銀行」 手数料の安さで「PayPay銀行」も猛追
企業と取引のあるネット銀行のうち、最も多いのは「楽天銀行」(5400社)で、次いで「PayPay銀行」(4319社)、「住信SBIネット銀行」(2552社)、「GMOあおぞらネット銀行」(1688社)の上位4行が取引社数で1千社を超える結果となった。
4割超を占めた楽天銀行に次いで多かった「PayPay銀行」。決済手数料や基本利用料の低さを背景に、多額の融資を必要とせず、決済手段として法人口座が必要な零細企業を中心に、口座開設を進める動きが加速したとみられる。
このように、各行では自社の証券業務や振込手数料の無料・格安化、デジタル給与サービスの提供など、多様な金融サービスを展開。中小企業や新興企業を中心に、水面下で顧客の囲い込みを図っている。
実際に、ネット銀行と取引を行う企業を調べたところ、1万3209社のうち、設立10年未満(2015-24年設立)の企業は51.06%・6744社、うち設立3年未満の割合が10.69%・1412社を占めるなど、業歴の浅い新興企業の占める割合が大きかった。
昨今のネット銀行は、従来の財務諸表に基づく審査を簡略化した人工知能による融資サービスなどを導入。特に大手銀行から資金調達が難しいスタートアップなど、新興企業への取り込みを順調に進めているようだ。
送金などの手数料が安く、融資審査も簡易で早いなど、利便性の高さで台頭するネット銀行。店舗型金融機関に代わる新たな受け皿として、今後さらに存在感を高めていくだろう。
出典元:【株式会社帝国データバンク】
参照元:【日本銀行(PDF)】