あなたは現在、資産形成についてどのように考えているだろうか。2019年に話題となった「老後資金2,000万円問題」や金融教育の大切さが叫ばれるなど、近年は個人資産の運用に大きな注目が集まっている。情報に敏い人は、すでに貯蓄のペースや資産の運用方法の計画を練り込んでいるかもしれない。だが、もし自身の定年まで収入を想定しながら数字をはじき出している人はぜひ注意していただきたいポイントがある。
今回は、年齢とともに上昇していくはずの収入の落とし穴についてご紹介したい。
多くの人に訪れる“収入減少”の罠
2019年、金融庁が公開した報告書が世間を大いにざわつかせた。医療の発達によって長寿化し「人生100年時代」と言われる現代で、毎月の生活費のうち年金の受給だけでは足りない分を貯蓄から補填していくと、総額2,000万円の貯蓄が必要となってくるという試算が公表されたからだ。そのため老後のための資産形成の重要性が大きく取り沙汰され、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)など、聞き慣れない横文字の言葉が飛び交うようになっていった。とくにNISAなどの投資では、「長期・積立・分散」が堅実な資産形成を行えるとして推奨されている。
しかしこの中の「長期」と「積立」を計画するにあたって、必ず意識しておいてもらいたいのが50代後半で訪れる“収入減少”の壁だ。
厚生労働省の調査によると、基本的に収入は年齢を重ねるにつれて一定のペースで上昇していくことがわかる。しかし50~54歳でピークを迎えると、それを境に55~59歳で微減し、以降は急速に落ちていくのだ。つまり、若いうちに定年まで一定ペースで収入が上昇していく想定で資産形成を計画すると、伸び続ける想定と下降線をたどる現実のギャップが年々広がっていってしまうことになる。
一定の金額を投資に積み立てたり、若いうちの負担を減らすため年々貯蓄額を増やしながら目標額を目指していたりすると、ピークを過ぎた収入では負担が増大することは確実。資産形成が計画通りに進まなくなるリスクが発生してしまうことになる。みなさんにはそうした想定外の事態に陥らないよう、55歳以降の収入減少を織り込んだうえで未来に向けての資産形成を考えてもらいたい。
資産形成の計画自体を否定しているわけではなく、むしろ投資などは積極的に取り組んでいくべきだろう。大切なのは、現実の増減速度に合わせた無理のない運用だ。
参照元:令和元年賃金構造基本統計調査 結果の概況(PDF)【厚生労働省】