近年、日本国内ではこれまで主流だった現金決済からキャッシュレス決済への移行が急速に進められている。これまで現金以外使えなかったような街の小さな老舗商店でも「PayPay」をはじめとしたQRコード決済が導入されたりと、現金を使わない決済方法が一気に身近な存在となった。このキャッシュレス化の波は老若男女問わない動き…かと思いきや、先日「高齢者の間ではまだまだ普及しきっていない」という調査結果が発表されたのだった。
今回は、これまで当たり前のように浸透しているものだと思っていた、高齢者層の“現金離れ”の状況についてお伝えしていく。
キャッシュレスは全世代に浸透している…?
世界の先進国の中でもキャッシュレス決済の浸透が圧倒的に低いことから、かつては“キャッシュレス後進国”と国民から揶揄されることもあった日本。しかし近年はQRコード決済の台頭などもあり、キャッシュレス推進協議会によれば2016年に20.0%だったキャッシュレス決済比率が2019年には26.8%へと上昇している。また、2年続けて3ポイント近い成長を遂げており、コロナ禍もあり感染対策としても受け入れられていることから、2020年は30%を超える規模になっている可能性も十分にあり得るだろう。
また、キャッシュレス決済は幅広い年代に受け入れられた傾向がある。同会が2019年に実施した調査によれば、デジタル化に疎いイメージのある高齢者層でも「キャッシュレスを利用していない」と回答したのは、60代で10.2%、70代以上でも17.7%に留まり、どちらの年代も5人に4人以上はキャッシュレス決済を使っていることが判明した。
しかし、マーケティング会社の日本マーケティングリサーチ機構が2020年8月に実施した調査では、「自分の周りに今でも現金決済のみの60代以上の人がいる」と答えた人は63%にのぼった。回答者本人のことではないため重複している可能性もゼロではないが、前述の10.2%・17.7%との開きがありすぎるため誤差で片づけられる範囲ではない。
どちらの数字が実情に近いのか。この乖離の原因を精査してみると、キャッシュレス推進協議会の調査の手法が“Webアンケート”であることがわかる。つまり、回答者はPCやスマートフォンを利用しているのだ。それだけデジタルに明るい高齢者であれば、QRコード決済などのスマホ決済へのハードルはデジタルに疎い高齢者に比べて圧倒的に低いことだろう。
一方で「周囲に現金オンリーの高齢者がいる」という回答であれば、本人がデジタルに明るくても疎くても関係がない。Webアンケートに反映されない層の存在が浮き彫りになった可能性が非常に高いのだ。そう考えてみると、日本マーケティングリサーチ機構の調査のほうが世間の実情に近い、ということも考えられる。
この考察はあくまで推測の域を出ていない。しかしもし実際に“情報強者”の声だけが反映されていたのであれば、国民総キャッシュレス化はまだまだ時間がかかりそうだ。
参照元:60代以上の方は現金決済が主流。63%の方が現金のみで決済【日本マーケティングリサーチ機構】
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