USBケーブルやACアダプタなどに記載の給電規格「USB PD」って何なの?

スマホやノートパソコンなどの充電には、USBケーブルを使用することが多いと思います。でも、充電速度が遅いとイライラしますよね。そのようなときは、「USB PD対応」と表記されているUSBケーブルやACアダプタに買い替えてみましょう。それにしてもUSB PDっていったい何なのでしょうか? そこで今回は、スマホなどを急速充電したいときに重要なUSB PDについて解説します。

急速充電したいなら「USB PD」対応のUSBケーブルやACアダプタを使おう!

最近のデジタル機器はUSBで簡単に充電できるようになってきました。

身近なものではスマホやタブレット、ノートパソコン、ポータブルバッテリー、ワイヤレスイヤホン、デジカメ、ゲーム機などがUSBで充電できますよね。

これらの機器はUSBケーブルとACアダプタを使って充電できますが、なぜか極端に充電速度が遅いときもありますよね。

そのようなときは「USB PD」対応のUSBケーブルやACアダプタを購入すれば解決できることが多いと思いますが、そもそもUSB PDっていったい何のことなのでしょうか?

最近、ACアダプタやUSBケーブルに「USB PD」という表記を見かけることが増えてきましたが、これっていったい何のことでしょうか?(筆者撮影)

USB PDは“USB Power Delivery”の略で、USB規格標準の給電能力よりも大きな電力100W(20V/5A)や240W(48V/5A)を供給できる規格のこと。

つまり、大きな電力を供給できるUSB PD対応製品を使ったほうが、スマホやノートパソコンなどを急速充電できるのです。

一般的にUSB規格といえば「USB Implementers Forum(USB IF)」が定めたUSB2.0とかUSB3.0、USB4などが思い浮かぶと思います。これはUSBのデータ転送速度や給電(バスパワー)について規定しています。

充電の出力(W・ワット)は電圧(V・ボルト)×電流(A・アンペア)で算出できますが、USB 2.0規格での給電は0.5A(5V/0.5A=2.5W)、USB 3.0規格では0.9A(5V/0.9A=4.5W)、USB BC(Battery Charging)では1.5A(5V/1.5A=7.5W)となっていました。

しかし、時代とともにもっと大きな電力を必要とするデジタル機器が増えてきたため、USB規格とは別の給電規格としてUSB PDが策定されたのです。

■主なUSBの転送規格

規格 転送速度
USB 2.0 最大480Mbps
USB 3.2 Gen 1
(USB 3.1 Gen 1/USB 3.0)
最大5Gbps
USB 3.2 Gen 2
(USB 3.1 Gen 2)
最大10Gbps
USB 3.2 Gen2×2 最大20Gbps
USB4 Gen 2×2 最大20Gbps
USB4 Gen 3×2 最大40Gbps
Thunderbolt 4 最大40Gbps
Thunderbolt 5 最大120Gbps

こちらはUSB規格によるデータ転送規格の比較表です。USB PDはこのUSB規格とはまったく別に策定された大きな電力を供給するための規格になります(表は筆者が作成)

USB PDは基本的にUSB Type-Cだけに対応する!

USB PDはUSB Type-Cに対応する給電規格であり、USB PDに対応するケーブルは基本的にUSB Type-C/USB Type-Cのみになります(両方の端子がType-C)。

USB Type-Cは「CC(Configuration Channel)」という信号ラインを持っているのが特徴ですが、このCCによってUSB PD対応機器を接続すると、情報が交換されて適切な電力が供給される仕組みになっているのです。

したがって、CCを持たないUSB Type-C/USB Type-Aケーブル(片方の端子がType-A)はUSB PDに非対応となります。ただし、Apple独自のLightning/USB Type-CケーブルもUSB PDには対応しています。

USB PDはUSB Type-Cに対応する給電規格ですので、基本的にケーブルの両端がどちらもUSB Type-Cでないと対応しません(筆者撮影)

同じUSB Type-Cでも、ケーブルの片側がUSB Type-Aだった場合は、CCを持たないためUSB PDには非対応となります(筆者撮影)

もちろん、USB PDでの急速充電を実現するには、充電するデバイス、ACアダプタ、USBケーブルがすべてUSB PDに対応している必要があります。

とはいえ、これらの条件をすべて満たしていても、充電時の最大電力はデバイスごとに異なっていますので、USB PD対応だからと言ってどんな機器でも100Wで充電できるわけではありません。

たとえば、iPhone 11までは最大18W、iPhone 12以降やAndroidスマホは最大20W程度(PPS対応Androidスマホは25W以上)、iPad・MacBook Air・Nintendo Switchなどは30Wです。

ほかにも、Windowsノートパソコンは45~65W程度(ハイスペック機は100W)、ほかにも14インチMacBookPro(M3)は70W、16インチMacBookProでは140Wなどとなっています。

したがって、iPhone 12以降で急速充電するには20Wで充電できる環境が必須になりますが、古いiPhone用のACアダプタを使ったりすると5Wでしか充電されないといったことが起きるわけです。

なお、「PPS」とは“Programmable Power Supply”の略です。これはUSB PD 3.0の新しいオプションで25W以上の充電が可能となる規格。

たとえば、従来のUSB PDでは30Wの電力を送っていても、スマホ側が20Wに制限することがあるため、どうしてもスマホが発熱したり変換ロスが発生していました。

しかし、PPSでは電圧や電流を細かく最適化して、効率的な充電が可能になるほか、バッテリーへの負荷も少なく寿命が延びると言われています。

これは、PPS規格に対応するデバイスでないと対応しませんが、現状PPSに対応しているスマホはさほど多くはありません。

ちなみに、最近の中国製Androidスマホでは、20W以上の超急速充電が可能な機種も登場しています。

OPPO Reno10 Pro 5Gは80W充電の「ワンダフルチャージ」、Xiaomi 13T Proなどは120W充電の「神ジューデン」に対応しており、今後はスマホの充電も20W以上が当たり前になっていくのかもしれませんね。

最近のスマホは20W以上で超急速充電できる機種もあります。なかでもXiaomi 13T Proなどの機種は120Wの「神ジューデン」に対応しています(画像はAmazon公式サイトより引用)

60Wを超える給電には「eMarker」の搭載が必須に!

USB PDでは100W(20V/5A)や240W(48V/5A)という大きな電力の供給が可能ですが、ACアダプタ側はさまざまなデジタル機器に合わせて、電圧が変化するようになっています。

USB PDの電圧は5V、9V、15V、20V、48Vに対応しています。5~15Vでは最大3Aの電流を流せるようになっていますが、20V以上になると5Aに対応します。

ここで注意したいのは、一般的なUSB Type-Cケーブルでも3Aで60Wまでは対応できますが、60Wを超える電源供給では、5Aの電流に対応するケーブルが必要になってくることです。

これは、USB端子に搭載された「eMarker」と呼ばれるチップが判断して適切な電力調整を行いますが、5A対応情報を感知すれば、60Wを超える電力を供給することが可能になるです。

したがって、eMarkerを搭載していないUSBケーブルでは最大3Aまでしか対応できませんので、最大でも60W(20V/3A)ということになります。

こちらはダイソーで330円のUSB Type-Cケーブル。「eMarker内蔵」で100W対応と表記されています。ただし、データ転送速度はUSB 2.0規格準拠の480Mbpsです(筆者撮影)

実際にUSBの性能を確認できる「USB CABLE CHECKER 2」でチェックしてみると、「CC」が点灯してOLEDに「E-MARKED」と表示されていました。これなら最大100Wの電源供給に使えます(筆者撮影)

というわけで、eMarker非搭載のUSB PD対応USB Type-Cケーブルでも60W(20V/3A)までは電源供給できますので、普通のスマホ(20W程度)を充電するくらいなら、十分に急速充電できることがお分かりいただけだでしょう。

ただし、ノートパソコンなどで60Wを超える大きな電力の供給が必要な場合は、「eMarker」と呼ばれるチップを搭載したUSBケーブルが必須になります。

また、データ転送も高速なものが欲しいということなら、少なくとも最大10Gbps対応のUSB 3.2 Gen 2(USB 3.1 Gen 2)以上のUSBケーブルを購入しましょう。

最近はUSB端子にUSB-IFが定めたロゴが表記されているものがありますので、これなら間違いありません。

●オウルテック「USB Type-C to Type-Cケーブル USB4対応 8K 40Gbps PD240W(48V/5A)」は→こちら(Amazon)

このオウルテックのUSB4対応Type-Cケーブルの端子にはUSB-IFのロゴ表記があり、転送速度が最大40Gbps、給電は最大240Wまで対応することが一目で分かります。価格は24年3月時点で2,580円です(画像はAmazon公式サイトより引用)

なお、ACアダプタを選ぶときもUSB PD対応製品を選ぶことになりますが、何Wまで対応するのか事前に確認してから購入しましょう。

とくに複数のポートを持つ機種の場合は、それぞれのポートの最大出力が何Wなのか確認することが大切です。

たとえば、48W対応として販売されている2ポートのACアダプタの場合、ひとつのポートは30W、もうひとつのポートは18Wで合計48Wという場合もあります。

これだと実際には最大30Wであり、48Wでの充電はできませんので、必ず各ポートが最大何Wに対応しているのか確認するようにしてください。

また、1ポート最大65W対応のACアダプタであっても。2ポート同時に充電した場合、1ポート当たりの最大電源供給量がガクッと落ちる場合もあります。

こちらは3COINSのUSB PDの65W対応AC充電器「GaN CHARGER 65W」(3,300円)。USB-Cポート単体使用時は最大65Wですが、USB-Cを2ポート同時に使うと45W+20Wとなります(筆者撮影)

まとめ

いかがでしょうか? 今回はスマホやノートパソコンなどの充電で注意したい「USB PD」について解説しました。

とにかくUSBの規格はややこしくて非常に分かりにくいのですが、20W程度のスマホの給電に関して言えば、3A対応のUSB Type-C/Type-Cケーブルと20W以上のUSB PD対応ACアダプタを使うことで問題なく急速充電できるはずです。

もし、今使っているUSBケーブルやACアダプタで急速充電されないのであれば、ぜひ買い替えを検討してください。

とくに、60Wを超える大きな電力で充電するノートパソコンなどを急速充電したいときは、「eMarker」搭載で100W対応以上(5A対応)のUSB Type-C/USB Type-Cケーブルと、最低でも65W以上のUSB PD対応ACアダプタを使用しましょう。

※本文中の価格はすべて税込です。
※Amazonで販売されている製品は、品切れになったり価格が大きく変動する場合があります。

すずきあきら
編集・ライター。パソコン通信時代からネットワークに接しWi-Fiやインターネット、SNSなどに精通。30年に渡って、パソコンやスマホ関連のムック本や雑誌記事を手がけてきた大ベテラン。最近は格安SIMなどのケータイ料金やアプリ、通信費全般の記事を執筆することが多い。

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