「いま住んでいるアパートや、実家の近くのTSUTAYAにもう何年も行っていない」「近所からレンタルビデオ店が一店舗も無くなってしまった」という方はこの記事をお読みの方の中にも、少なくないでしょう。
一方で、レンタルビデオ店に通うことは2024年現在でも決して「つまらないこと」ではないはず。動画サブスク全盛の時代だとしても、まだ一定程度の市場規模くらいはキープできているのでは?という疑問もありますよね。
では、いまの「レンタルビデオ業界」は「動画サブスク」に比べてどれくらいの市場規模なのでしょうか。この記事では、両者の最新の市場規模を比較しながら、業界の現状と今後の展望について詳しく見ていきます。
「レンタルビデオ業界」は動画サブスクの「10分の1」まで下降
日本映像ソフト協会による2023年の調査によると、レンタル市場規模は417億円。一方、GEM Partners株式会社の調査によると、動画サブスク全体の市場規模は5,054億円となっており、レンタルビデオ業界は「動画サブスクの10分の1」まで落ち込んでいます。
レンタルビデオは「417億円(前年比27%減)」
先述したとおり、2023年のレンタル市場規模は417億円となっています。前年比27%減です。ちなみにレンタルビデオ業界がまだまだ活性化していた2007年まで遡ると、同年の市場規模は3,604億円でした。
たとえば、レンタルビデオ店と言えば「TSUTAYA」を連想する方は多いでしょう。TSUTAYAはピーク時には1,470店舗(2012年)でしたが、2024年4月には約790店、ビデオレンタル取扱店は約510店にまで減少しています。この急激な市場縮小の背景には、やはり動画配信サービスの台頭が大きく影響していると考えられるのではないでしょうか。
動画サブスクは「5,054億円(前年比12.1%増)」
一方、動画サブスクの同年の市場規模は5,054億円。前年比で12.1%増を記録しており、なおかつ2007年時点のレンタルビデオ業界の市場規模もすでに上回っています。Netflix、Amazonプライム・ビデオ、Disney+などの海外勢に加え、U-NEXTやdTVといった国内サービスも充実し、消費者の選択肢が広がっています。利便性の高さや豊富なコンテンツラインナップが、多くのユーザーを引き付けている要因と言えるでしょう。
ちなみに2007年時点の「セル」の市場規模は3,038億円。2007年のレンタル+セルの合算の市場規模は約6,600億円です。レンタルとセルの合算(※2007年時点)を、2024年時点の動画サブスクが単体で市場規模で上回っているわけではありません。とはいえ「動画サブスク」の市場規模の急成長は驚異的なペースです。
「返すのがめんどくさい」という理由で従来はレンタルをしていなかった方ですら、サブスクに加入している可能性が十分にうかがい知れる数値感です。
蔦屋書店のFCを手がけるトップカルチャーは「レンタル」撤退を発表済み
レンタルビデオ業界の市場規模縮小は、いわゆる「メガフランチャイジー」の動向にも影響を与えています。
たとえば長らくTSUTAYAのフランチャイズ店舗運営を手がけてきた、株式会社トップカルチャーは2021年7月にレンタル事業からの撤退を発表しています。
もっとも、レンタルビデオ業界の市場規模417億円(2023年時点)は決して小さくない数字であるとも言えます。「レンタルに需要が全くない」とは言えないでしょう。実際にはトップカルチャーのレンタル事業からの撤退は、2024年現在も「少しずつ、業態転換とセットで進んでいる」段階であると見られます。
なお、同社は化粧品専門店のほか、お取り寄せ菓子売り場や高級食品スーパーなどを店舗内に設け、来店客数や来店頻度の増加を目指す方針を打ち出しています。積極的に、蔦屋書店の店舗内への専門店オープンも進めています。
「郵送型DVDレンタル」はレンタルビデオ業界を支えうるのか?
なおレンタルビデオ業界の今後について考える際、サブスク解禁されていないマイナー作品などを中心とした「郵送型DVDレンタル」には活路が見いだせるのでは? と考える方もいるでしょう。国内の有名な郵送型DVDレンタルには、TSUTAYA DISCASが挙げられます。
郵送型DVDレンタルの市場について考える際には、海外事例が参考になります。たとえばNetflixはもともと郵送型DVDレンタル事業を手がけていた事業者です。そして動画サブスクの代表格となった後も、郵送型DVDレンタルの事業はひっそりと継続されていました。
全米ラジオネットワークのNPRによれば、2022年には110万人~130万人の加入者が存在。1億4570万ドルの収益を上げていましたが、2023年には事業の終了を発表。この加入者数と売り上げは、一見大きい数字のように思えます。しかし、同時期における「動画サブスクとしてのNetflix」の加入者数は世界中で2億3,250万人。郵送型DVDレンタルと動画サブスクは、規模感において比べものにならないことが分かります。
つまり郵送型DVDレンタルには一定の需要がありますが、動画サブスクの方が市場規模も需要も大きいのは確か。そしてDVDレンタルにはピッキングや配送、また郵送コストが生じる。またサブスク解禁されていない古い作品などが需要の中心となり得るであろう考えた際、ニーズは「一定程度あるかもしれないが、限定的」でもあると言えます。
こうした海外事例を踏まえて考えると、国内の郵送型DVDレンタルもまた「一定の需要こそありつつも、中長期的な市場規模拡大が期待できるかは微妙」と言えるかもしれません。前年比27%減といったペースで市場縮小が続くレンタルビデオ業界を支える規模感まで、今後拡大するサービスかと言えば疑問符も付くでしょう。
TSUTAYAが苦戦する中でも「ゲオ」が絶好調なのはなぜ?
ここまで「レンタルビデオ業界」の苦境について述べてきましたが、店名としては「TSUTAYA」に中心的に触れています。TSUTAYA以外のレンタルビデオ店としては「ゲオ」が有名です。
ではTSUTAYAの店舗数減少と同様に、ゲオも苦戦しているのでしょうか? 実は、同じくビデオレンタル事業を手がけていたゲオは「業績が好調」です。レンタルビデオ店としてのイメージが強いゲオは、実は早くからリユースビジネスへの転換を図りました。特に注目すべきは、同社が手がけるリユースショップ「2nd STREET(セカンドストリート)」の拡大です。2022年12月時点で、GEOの店舗数1,098に対し、2nd STREETは787店舗まで拡大し、海外にも45店舗を展開するなど、急速な成長を遂げています。
またゲオは「格安スマホ」の市場にもいち早く着目し、中古スマホや中古携帯を手がける「ゲオモバイル」を全国展開。お近くのゲオ店舗で、レンタルDVDやレンタルCDのコーナーに匹敵するか、それを上回る規模で「中古スマホ」が取り扱われている様子を目にしたことがある方も多いでしょう。
つまり、ゲオはレンタルからリユースに舵を切る「業態転換」が功を奏していると言えるでしょう。もしかしたら今後、ゲオ以外のレンタルビデオ店でも「店舗内で、別の専門店を併設する形で業態転換する」などの動きがより活発化していくかもしれません。
※サムネイル画像(Image:Ned Snowman / Shutterstock.com)