CDの次世代規格は不要? 音質が良い「SACD」が流行らなかった3個の理由

近年はApple Musicに代表される「ハイレゾ音源」に対応するストリーミングサービスが登場しており、「CDより音質が良いサブスク」が珍しいものではなくなりつつあります。

(画像は筆者作成)

とはいえ、よく考えると、CDが製品化されたのは1980年代初頭のこと。約40年にわたり、CDが音楽再生媒体として汎用性と音質の両面で一線級のものであり続けているのはすさまじいことではないでしょうか。

ではそんなCDには、この40年の間に「ほかの媒体が主流になるピンチ」はなかったのでしょうか? 実は90年代末~00年代にはCDよりさらに高音質な「SACD」が登場しています。

(画像は筆者作成)

SACDは、ソニーとフィリップスが1999年に開発した高音質オーディオディスク規格。CDよりも高い周波数帯域と量子化ビット数を使用し、DSD方式で音声を記録します。通常のCDと同じ大きさですが、最大100kHzを超える広帯域と120dB以上のダイナミックレンジを実現し、原音により忠実な再現を可能にしたものでした。

実は2024年現在でも生産が継続しているSACD。とはいえ、CDよりもはるかにマイナーだと感じる人が多いのではないでしょうか。ではなぜSACDは流行らなかったのでしょうか。3つの要因を解説します。

安価な再生機器が市場に登場するまでに時間を要した

1999年3月にソニーとフィリップスにより規格化されたSACDにとって、普及価格のコンポとして期待された存在が2003年発売のミニコンポ「Listen」シリーズでした。

「Listen」シリーズの最大の特徴はSACDの再生に対応していたこと。このシリーズは、音にこだわりのあるユーザー、主に大人をターゲットにしており、音質やデザイン面で高級志向のコンポないしはマイクロコンポとして展開。音質面では、高音域の再現性を高めるためにナノファイントゥイーターを採用し、低音域ではツインウーファーを搭載することで迫力のあるサウンドを実現していました。

とはいえ安価な再生機器が市場に登場するまでに約4年の月日を要したのは「長かった」側面がありました。00年代に入ると、たとえば初代iPodが2001年に登場するなど音楽の聴取環境自体に変化が起き始めていました。

CDは約40年間主流の音楽媒体であったことからも分かる通り、必ずしも低音質の媒体ではありません。「CDよりも音質が良い」という訴求は、初代iPodの登場などを背景によりインスタントに音楽を楽しむ動きが広がっていた時代にそぐわなかった側面がありそうです。

着うたが爆発的な人気を獲得した

(画像は「photoAC」より)

2002年に「着うた」、2004年に「着うたフル」が開始されると大きなブームになり、総務省の「モバイルコンテンツの産業構造実態に関する別添 調査結果(平成24年)」によると、ピークの2009年には市場規模1,201億円も記録しました。着うた、着うたフルの普及により、「携帯電話で音楽を聴くこと」が普通になっていき、それがのちにスマホでの音楽サブスクサービスを利用することに繋がっていきます。

つまり着うたフルはCDのようにコンポにディスクを挿入する必要もなく、iPodのように「iTunes Storeで購入した楽曲を端末に転送する」手間もなく、携帯電話で完結する音楽の楽しみ方として爆発的に普及したといえます。

「高音質」を謳うSACDが普及価格のコンポが出てもなお苦戦していた00年代前半に爆発的に市場が拡大したのは「着うた」だったというのは、ある種示唆的です。

先にも述べた通り、CDの音質が十分で「CD以上の高音質を求めている人はあまりいない」「もうちょっと簡単に音楽が聴けるほうが嬉しい」というのが当時の市場のニーズだったと考えられます。

CDバブルの崩壊が始まりだしていた

CDの売り上げは1998年にピークを迎えましたが、その後は右肩下がりに減少。たとえば98年には26作のシングルがミリオンセラー認定されていますが、10年後の2009年は0作。2019年は6作ですが、2022年は1作、2023年は6作と、非常に数が減っているのが事実で、ここ10年はアイドル以外はミリオン認定されていません。

つまりCDバブルが起きている状態で、新しい物理メディアであるSACDが広く受け入れられることは難しかったといえます。

CDの「次世代規格」は不要?

SACDはCDの次世代規格に相当しますが、これまでに述べた様々な要因で普及には至らなかったといえるでしょう。このように00年代には様々な次世代規格が登場しました。そうして登場し、失敗した次世代規格の一つには「CCCD」があります。

CCCDは、コピーコントロールCDの略称です。音楽CDの違法コピーを防ぐ目的で2002年頃から登場した規格で、CDのデータに意図的にエラーを仕込むことで、パソコンでの音楽データの取り込みを困難にすることを目指していました。

(画像は「ビクターエンタテインメント」公式サイトより引用)

しかし、CCCDは多くの問題点を抱えていました。まず、CCCDは厳密には「音楽CDの標準規格」に準拠していません。つまり「CD」とは呼べない製品でした。「CDではないもの」を「CDプレーヤーで再生する」こととなるため、CDコンポで再生できないケースがあるだけでなく、製品の故障を招くことすらありました。さらに、意図的に挿入されたエラーデータにより、音質の劣化や再生時の音飛びなどの問題が報告されました。

CCCDについては音楽ファンだけでなく、アーティストからの反発も大きく、結果として、CCCDは音楽業界が忘れ去りたい「黒歴史」の一つとして認識されるようになりました。

総じてCDの次世代規格は「登場しては消えていった」のが現状であり、2024年現在では、むしろオールドメディアであえるアナログレコードの復権が相対的に目立つ状態です。

またAACやMP3など圧縮音源や、ハイレゾ音源で音楽を楽しむのも定番化。CDの次世代規格は「再生機器の普及」「CDを上回る高音質を求めるニーズの小ささ」「CDバブルの崩壊」など様々な要素に鑑みると、現実的に登場自体が難しいのが現状といえるかもしれません。

※サムネイル画像(Image:Hadrian / Shutterstock.com)

オトナライフ編集部
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