テレワーク(在宅勤務)の失敗事例から学ぶ失敗の原因と成功のヒント

テレワークとは、「tele = 離れた所」と「work = 働く」をあわせた造語で、情報通信技術を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。働き方改革の推進に伴い、テレワークを導入する企業は年々増加しています。

国土交通省が行なった『平成30年度テレワーク人口実態調査』によると、雇用型就業者の16.6%、自営型就業者の24.0%がテレワークを活用して働いています。

テレワークは生産性や社員満足度の向上等多くのメリットが期待できる働き方です。しかし、その一方でテレワークの導入には様々なハードルもあり、なかなか導入に踏み切れていない企業が多いのも事実です。

本記事では、海外で実際にあったテレワークの失敗事例をもとに失敗の原因を紹介し、失敗を防ぐためのポイントを解説します。ぜひ、テレワーク導入時の参考にしていただければと思います。

テレワークの失敗事例

テレワーク(在宅勤務)の失敗事例から学ぶ失敗の原因と成功のヒント

アメリカでは85%の企業がテレワークを導入しています。そんなテレワーク先進国であるアメリカのYahoo!やIBMなどの大手IT企業で在宅勤務を禁止した事例があります。

 

なぜ在宅勤務が禁止されたのかを紹介しながら、テレワーク失敗の原因について考えていきたいと思います。

 

■米Yahoo!が在宅勤務を禁止(2013年)
2013年3月に掲載されたアメリカの「ウォールストリートジャーナル」によると、米Yahoo!のマリッサ・メイヤー最高経営責任者が、テレワークを行なっている全社員に対して、オフィス勤務に移行するよう指示するメールを送信したそうです。

 

マリッサ・メイヤー氏は、オフィスとの距離がコミュニケーションの連携不足を生み、仕事の質やスピートが低下すると主張しました。

 

米Yahoo!では、それまで社員の25%がテレワークを行なっていました。しかし、在宅勤務中に副業を行なう、別会社を立ち上げる、自分の仕事を下請けに流すなどという問題が発覚したそうです。

 

優秀な社員を多く抱えるテック企業といえども、テレワーカーたちのマネジメントが予想していたよりもうまくいかず、テレワークを禁止するという決断に至ったようです。

 

■米IBMがフルテレワーク社員の勤務形態を変更(2017年)
米IBMは1990年代からテレワークを導入している先駆者でした。2009年には173か国38万6000人の社員のうち、40%がテレワークを行っていると公表しました。さらに、テレワーク制度の導入により、IBMは各地のオフィスビルを約2250億円近くで売却したことも話題となり、テレワークへの注目が一気に集まりました。

 

しかし、2017年に米IBMはオフィスに自席を持たず、100%テレワークで業務を行っていた社員に対し、席を設けました。そして、必要なときはオフィスで勤務するように求めました。

 

米IBMではビジネススタイルがウォーターフォールからアジャイルに変わり、迅速な対応が求められるようになったことが勤務形態の変更の大きな要因でした。そのため、テレワークよりもオフィスで勤務するスタイルのほうが適していると判断したようです。

テレワークが失敗する原因

テレワーク(在宅勤務)の失敗事例から学ぶ失敗の原因と成功のヒント

メリットが多いように感じられるテレワークですが、先ほどのYahoo!やIBMの例のように想定よりもマネジメントが難しかったり、業務スタイルに適していなかったりする場合があります。

 

ここからはテレワークが失敗する原因について解説します。失敗の原因を理解することで、自社の業務スタイルにマッチしているか、どのような部分でつまずく可能性があるかが把握できます。

 

■目的意識が希薄なまま始めてしまう
テレワークを導入する企業が増える中、「流行っているから」「他社に遅れをとってはいけないから」という気持ちが先行し、テレワークに踏み切ってしまうことは失敗の原因となります。

 

どのような効果を得ること目的として導入を目指すのかによって、必要な制度や仕組みが大きく異なります。

 

テレワークがもたらす効果については後述しますが、例えば、「ワーク・ライフ・バランス」の実現を目指すことが目的であれば、生産性の向上やコスト削減の効果を測るような指標は不要かもしれません。

 

目的意識が希薄なままテレワークの導入を進めてしまうと、制度や仕組みがきちんと機能せず、社員のモチベーション低下や不満の増加に繋がってしまいます。

 

■ツールが先行しすぎる
最近ではWeb会議システムやチャットツール、勤怠管理ツールなどテレワークを円滑に行うためのツールが増えてきています。

 

どれも非常に便利そうなので、とりあえずツールを導入してしまうというケースがあるかもしれません。あるいは、とりあえず社員全員にタブレット端末などを配布し、テレワークを取り入れてみようとするパターンもありそうです。

 

しかし、そのツールで何ができるのかを十分に検討せずに導入してしまうと、まったく活用されなかったり、「使い方がわからない」という社員のサポートで手いっぱいになってしまったりする可能性があります。

 

その結果、せっかくコスト削減のためにテレワークを導入しようとしていたのに、莫大なコストが掛かってしまったということになりかねません。

 

■コミュニケーションが減少する
テレワークの導入により、社員同士が顔を焦る機会が減るとコミュニケーションの頻度がどんどん減少します。

 

コミュニケーションの減少はチームワークの悪化やモチベーションの低下に繋がります。特に新しいメンバーが入ってきたときや新たなプロジェクトチームを立ち上げるときなどに必要なチームビルディングの難易度はグッと上がります。

 

コミュニケーションの減少を補う対策がなされないまま、テレワークを推進してしまうと、結果的に生産性が下がってしまうといった問題が起こる可能性があります。

 

■働きが評価されにくい
日本よりもアメリカでテレワークが普及している理由の1つとして、仕事の評価方法の違いが考えられます。アメリカでは、職務記述書によって個人の仕事内容と責任が明確に定められており、成果による業績評価・報酬制度が定着しています。

 

一方で、日本では働いた時間に見合った対価をもらうという文化が強いです。そのため、働いている様子が見えないテレワーカーの働きを評価するのが難しいという問題があります。

 

評価制度がきちんと整えられていないと、勤務態度などで評価してもらえるオフィス勤務社員と査定に差がついてしまい、自分の頑張りが評価されていないといった不満に繋がります。

 

■セルフマネジメントができないと生産性が落ちる
テレワークの種類の中でも特に在宅勤務の場合、セルフマネジメントがきちんとできる人でなければ生産性は落ちてしまいます。自宅にはオフィスとは異なり、上司の目もなければ、テレビや家事など仕事の妨げなるものがたくさんあります。
エン・ジャパン株式会社が実施した『中小企業の「テレワーク」実態調査』の結果でも多くの企業がテレワーク導入の上で難しかったことして、「テレワーク社員の時間管理」を挙げています。

 

一度サボり癖がついてしまうと、それを自分で正すのは非常に困難です。このようなサボり癖は言うまでもなく、生産性の低下に繋がります。

 

■過労に気づくことができない
サボり癖が付いてしまう問題の逆で、働きすぎに気づくことができないことも「テレワーク社員の時間管理」の難しいポイントの1つです。

 

上司の目が届かないテレワークでは、残業申請をせずに深夜まで働いている社員がいても、それに気づくことができません。

 

気づかないうちに、身体や精神の調子を崩してしまい、業務が行えなくなってしまう恐れがあります。

 

■キャリアプランを見失いやすい
特にフル在宅勤務の社員は、上司と自分のキャリアプランについて話し合う機会が減少してしまう傾向にあります。また、長期的にテレワークを続けていると、会社に所属している感覚が薄くなり、自分の担当業務以外でどのような仕事が行われているか分かりづらくなります。

 

このような状況が続くとテレワーカーは、会社での自分のキャリアプランがイメージしづらくなったり、成長の機会が得られないと感じるようになります。

 

キャリアプランに不安を感じることは、退職を考える大きなきっかけとなるので注意が必要です。

 

■テレワークが企業風土に合わない
紙の書類のやりとりやテレワークに向いていない業務内容が多い職場では、テレワークを導入してもその効果を得ることができません。逆に、在宅勤務では対応できないことが増え、手間が増えてしまう可能性もあります。

 

また、業務内容ではなく労働時間での評価制度がある場合、社員間での公平性を保つのが難しくなります。

 

自社の企業風土がテレワークに適しているかどうかを十分に検討せず、現場のニーズとの不一致が発生すると、せっかくのテレワーク制度も意味をなしません。

テレワークの導入を成功させるポイント

テレワーク(在宅勤務)の失敗事例から学ぶ失敗の原因と成功のヒント

ここからは、テレワークの導入を成功させるポイントについて紹介します。効果的にテレワークを導入できるように失敗の原因を理解すると共に、事前にクリアすべきポイントを把握し、準備をすることが大切です。

 

■テレワークの目的を明確にする
テレワークの導入を検討する上で最初に行わなければいけないのが、目的を明確にすることです。テレワークの導入自体が目的にならないよう、目的意識をきちんと持つことが大切です。

 

目的を定めるには、現場が抱える課題やニーズの把握することも必要です。どんな社員がテレワーク制度を必要としているのか、どのようなルールを定めればより働きやすい環境を作れるのかなどをよく検討してください。

 

目的が明確になったら社内で共有し、社員それぞれにテレワークの意義を理解してもらうこともスムーズに導入を進めるための重要なポイントです。

 

■テレワークに関するルールを作る
テレワークの形態として「在宅勤務」「モバイルワーク」「サテライトオフィス勤務」があります。どの形態を取り入れるのか、どの部署まで適応するのか、どのような条件で導入するのか…などテレワークに関するルールを作りましょう。
テレワークに不向きな業務やセキュリティの観点でリスクが大きい業務もあるかと思います。そのような業務については、テレワーク制度を適用するかどうかを慎重に判断する必要があります。

 

■コミュニケーションの仕組みを作る
テレワークの大きな課題であるコミュニケーションの不足を防ぐ仕組み作りは非常に重要です。いつでも迅速に必要な情報を入手できる基盤やオフィス勤務の社員やテレワーカー同士が円滑にコミュニケーションを取れる手段を整備しましょう。

 

現在、Web会議システムやビジネスチャットツールなど、コミュニケーションを取るためのツールは豊富にあります。そのようなツールを導入することはもちろん、定期的に顔を合わせたり、1on1ミーティングをセッティングするなどのルール作りも有効です。

 

■適切なツールを導入し、環境を準備する
先述した内容にも繋がりますが、コミュニケーションの問題を解決するためのツール導入は欠かせません。また、勤怠や業務時間の管理などのツールの導入でスムーズに行うことができます。

 

テレワーク環境の準備の中で特に気をつけたいのは、セキュリティ対策です。自宅では会社に比べて、セキュリティレベルが低くなります。セキュリティツールをきちんと導入し、対策をしましょう。

 

このように使用ツールが増えることで戸惑ってしまったり、スムーズに業務が行えなくなるテレワーカーが出てくることも考えられます。それを防ぐために、なるだけ直感的に操作可能なツールの選定を行うことや事前に研修を行うことも検討すると良いかもしれません。

 

■人事労務制度を整備する
在宅勤務の日数が週1〜2回の場合は現行制度をそのまま使用する企業が多いそうですが、フル在宅勤務の場合は労働時間の管理方法や労働災害、評価制度などを整備することが重要です。

 

社員間での公平性を保ちながら、個人の目標を具体的な数値として明確にし、成果を評価できる仕組みが必要になります。

 

一方で、テレワーカーを適切に管理・評価できるように管理職の立場にある人を教育することも大切なポイントです。具体的な数値など客観的指標を用いて、テレワーカーのモチベーションを低下させることなく、評価できるようにしましょう。

テレワークの導入で期待できる効果

テレワーク(在宅勤務)の失敗事例から学ぶ失敗の原因と成功のヒント

テレワークによる効果は幅広いですが、導入企業だけでなく社会全体にも良い影響を与えます。

 

しかし、まだテレワークがあまり普及していない日本では、その効果が分かりづらいかもしれません。ここからは5つの観点で、テレワークの導入によって得られる効果について紹介します。

 

■生産性・効率性の向上
テレワークを導入することで、生産性の向上や業務効率化を見込めます。テレワークでは出社の必要がない、あるいは頻度が減ります。満員電車に揺られて出勤をしなくてはならない日本では、通勤時のストレスや疲労が軽減することで、仕事への集中力が高まることが期待できます。

 

また、在宅勤務やサテライトオフィス勤務の場合、予定外の打ち合わせや会議、訪問者への対応などで業務を妨げられることがなくなり、生産性を向上させることができます。モバイルワークでは移動時間を有効活用でき、仕事の効率化を図ることができます。

 

■優秀な人材の確保と多様な人材の活用
場所や時間にとらわれない柔軟な働き方が可能になるので、事情や制約を抱えながらも働く意欲が高い優秀な人材を引き付けることが期待できます。さらに、最近は若い世代を中心に自由な働き方を求める人が増えているため、ポテンシャルの高い若者の獲得にも効果があると考えられます。

 

また、これまで育児や介護で退職せざるを得なかった貴重な戦力の活用にも繋がります。少子高齢化が進む中、新規雇用が難しくなっています。さまざまな状況にある人材を活用できるようになることは企業にとって大きなメリットとなります。

 

■コストの削減
米IBMの例にもあったように、大規模なオフィススペースが不要となり、家賃や人員増加に伴うオフィス移転の費用などを削減することができます。さらに、オフィスの光熱費や事務用品も最低限で済ようになります。

 

在宅勤務や営業職で直行直帰型のモバイルワークを行う社員が増えれば、交通費の削減も可能です。

 

■ワーク・ライフ・バランスの実現
「ワーク・ライフ・バランス」とは仕事と仕事以外の生活の調和をとり、その両方を充実させる働き方、生き方のことです。家族と過ごす時間を増えたり、趣味を楽しむ時間を作れるようになり、社員の幸福度や満足度が向上し、仕事へのモチベーションも上昇することが期待できます。

 

このような職場環境が整っている企業は優秀な人材にも魅力的に映ります。また、社員の満足度が高いことは企業のブランドイメージの向上にも繋がります。

 

■事業継続性の確保
テレワークの導入は、事業継続においてリスクヘッジの役割を担う効果があります。自然災害や感染症の流行が起きた際に、テレワーク環境が整備されていれば在宅勤務やモバイルワークを活用し、事業を継続することが可能です。会社に出勤できないことによる損害を最小限に抑えることもできます。

 

また、日常的にテレワークの働き方に慣れていれば、非常時に多くの業務がテレワークに移行したとしても、スムーズに運用ができるでしょう。

文=らんらん/フリーライター

働き方の多様性が求められる現在、テレワークの導入を検討している企業は多いと思います。テレワークをうまく導入することができれば、解決できる企業の課題は多くあります。

 

今回紹介した失敗事例や成功するためのポイントなどを参考に、ぜひテレワークが導入できないか検討してみてください。

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