「シュレディンガーの猫」とは、量子力学の有名な思考実験で、箱の中にいる猫が生きているか死んでいるかは観測するまでわからないというものです。この有名な問いに対し、人工知能であるChatGPTはどういった解釈をしているのでしょうか。
この記事では、「シュレディンガーの猫」の解釈について、筆者とChatGPTの対話の結果をご紹介します。
【目次】
「シュレディンガーの猫」のパラドックスとは?
「シュレディンガーの猫」のパラドックスへの回答例
ChatGPTは「シュレディンガーの猫」のパラドックスにどう回答する?
「シュレディンガーの猫」の観測者が複数名居た場合はどうなる?
「最終的観測者」とは何者か、遺伝的アルゴリズムでChatGPTに考えてもらった
まとめ
「シュレディンガーの猫」のパラドックスとは?
「シュレディンガーの猫」とは、1935年にオーストリアの物理学者エルヴィン・シュレディンガーが発表した、量子力学的記述が不完全であると説明するために用いた、猫を使った思考実験です。
そのため箱を開けて観察するまでは、猫は生きているとも死んでいるとも同時に言える状態になるというのが「シュレディンガーの猫」のパラドックスです。
「シュレディンガーの猫」のパラドックスへの回答例
古典的物理学に対して、量子力学の観点から投げかけを行う「シュレディンガーの猫」。シンプルながらも難しい問いですが、基本的には2通りの回答が考えられます。
「神はサイコロを振らない」:猫の生死は観測に関わらず決定する
まずは「猫の生死は観測に関わらず決定する」という立場。これは第三者や各種機器による観測が行われていないとしても、猫の状態は必ず「生きているか、死んでいるか」であるというものです。
この立場を支持する有名な物理学者はアインシュタイン。アインシュタインは「神はサイコロを振らない」としたうえで、誰にも見られない石ころもそこにあり、目を閉じても世界はそこにあるように「観測されていないものでも生きているか、死んでいるかいずれかの状態にある」と主張しています。このような考え方は「決定論」に基づくものとも言われます。
「コペンハーゲン解釈」:猫の生死は観測されるまで「重なり合わせ」にある
もう一つの立場は、猫の生死は観測されるまで「重なり合わせ」の状況にあるというものです。「シュレディンガーの猫」を例にすると、箱を開けて観測をすれば猫の生死は確定します。しかし箱を開かず、観測しなければ生死は確定しません。
つまり猫が生きていた場合は、遡って「箱を開ける前の猫は生きていた」と確定し、逆に猫が死んでいた場合は「箱を開ける前の猫は死んでいた」と確定します。つまり観測者の「観測」によって猫の生死はどちらかに収束するという考え方です。
「神はサイコロを振らない」立場に対して、はるかに観測者の重要性が高い立場と言えるでしょう。
また「量子的な重なり合い」という発想には一定のロマンもあり、近年では量子力学の考え方はパラレルワールドを取り上げたSF作品にも応用されることがあります。
ChatGPTは「シュレディンガーの猫」のパラドックスにどう回答する?
ChatGPTは「シュレディンガーの猫」のパラドックスについて、どう回答するのでしょうか。実際にChatGPTで検証してみました。
「古典的物理学」「コペンハーゲン解釈」それぞれの立場のロジックを洗い出して採点
まずは神はサイコロを振らない「古典的物理学」と「コペンハーゲン解釈」、それぞれの立場が依拠する科学的根拠やロジックを10項目ずつ、ChatGPTに洗い出してもらいました。なおかつ各項目が科学的かつ合理的で、「シュレディンガーの猫」の問いに対する回答として優れているのか、項目ごとに5点満点で採点してもらいました。全項目が「5点」の場合、合計得点が50点となります。
そして最終的に「古典的物理学」「コペンハーゲン解釈」の点数を照らし合わせ、より点数が大きい方が「シュレディンガーの猫」の問いに対して、より優れた解であると言えます。
すでに量子力学は科学の分野として確立されており、前述の通り「量子ビット」は実用化もされています。そのため、この問いに対するChatGPTの採点結果は予想通りのものと言えるでしょう。
「シュレディンガーの猫」の観測者が複数名居た場合はどうなる?
「シュレディンガーの猫」自体は量子力学の様々な実験結果を踏まえると、ChatGPTが示す通り「観測されるまでは未確定である」というのが合理的な立場と言えます。
一方で、この「シュレディンガーの猫」の観測者を複数名へと発展させると必ずしもそう言えなくなってきます。
何故なら「シュレディンガーの猫」の生死を決めるのが「観測者Aさん」であるとしましょう。しかし、その観測者Aさんの観測結果が「正しいものである」と観測するまた別の観測者は必要ではないのでしょうか。「また別の観測者が必要である」とすると観測者が無限大に増えていくことにはならないでしょうか。
つまり「シュレディンガーの猫」の生死は、観測者が観測した時点で決まります。では「ウィグナーの友人」が密室で猫の生死を観測し、なおかつ生死の情報を一切外に漏らしていないとしましょう。
この場合、外にいるウィグナーにとっては「猫の生死」は依然として未確定です。猫の生死は「友人が生死を確認した時点で決まる」のでしょうか。それともウィグナーが友人に生死を尋ね、正しい生死を確認した時点で決まるでしょうか。
以下の2つの立場で、先の問いと同様に依拠する科学的な根拠やロジックを洗い出し、採点を行ってもらいました。
・立場1: ウィグナーの友人が猫の生死を確認した時点で、ウィグナーが「猫は死んでいるか」と尋ねる前に生死は決定している
・立場2: ウィグナーの友人が猫の生死を確認しても、ウィグナーが「猫は死んでいるか」と質問して返答を得るまで密室および箱、猫の状態は不確定のままである
猫の生死を決定する観測者は一人で十分?最終的観測者が必要?
先のChatGPTの回答は、実は不可思議なものでもあります。
何故ならシュレディンガーの猫がいる密室の外で待つウィグナーにとっては「猫の生死」も「友人が猫の生死を確認したか」も未確定であり、友人は「巨大なシュレディンガーの猫の箱」にいるものと考えられるためです。
シュレディンガーの猫が「観測するまで生死が確定しない」ものであるとするならば、ウィグナーが友人に「猫は死んでいるか」と確認しなくては生死が確定しないのではないでしょうか。たとえウィグナーの友人が猫の生死を見たとしても、それを観測するウィグナーがいなくては何も確定していないのではないでしょうか。
この問いに対して、ChatGPTは「観測の一回性」を強調する回答を返しました。
総じて量子力学は科学的な議論が続けられており、明確な正答は存在しないことを前提としたうえで、ChatGPTはあえて言えば「コペンハーゲン解釈」を正とし、最終的観測者は必要とせず「猫の生死を一回でも観測する他者がいれば、量子状態は確定する」とひとまず考えていると言えるでしょう。
ただChatGPTの先の採点結果では、立場1と立場2の点数にはさほど開きはなく「当座の答え」という感じは否めません。与える前提条件次第で回答が変わりそうであるため、もう少し深く洞察した方が良さそうな感触があります。
「最終的観測者」とは何者か、遺伝的アルゴリズムでChatGPTに考えてもらった
さきほど「当座の答え」という感じがあると書きましたが、個人的に筆者は「観測の一回性」という回答は微妙だと考えました。
つまりウィグナーの友人が立ち入った密室を「巨大なシュレディンガーの猫」と捉えた時、外にいるウィグナーにとっては「猫の生死が不確定」ながら、実際には生死が確定するというのは違和感がありました。つまり「最終観測者とは何者か」、やり取りの中でChatGPT自身が答えを深められていないのではないかと思ったのです。
そこで最後におまけとして、もう少し「立場2」を掘り下げる形で、ChatGPTに質問を重ねました。具体的には「ウィグナーの友人を観測するウィグナー」といった最終観測者の考え方を深めてみました。この考え方を深めると無限に「観測者」が必要となるため、一般的には「観測者とは神である」といった考えに辿り着きやすいです。しかしその回答は科学的ではなく、あまり面白いものではありません。だからこそChatGPTに考察を依頼しました。
通常、「観測」という行為を考えるとき、観測者と観測対象とは別のものとして想像されます。たとえば鳥を観察するとき、人間が観測者で、鳥が観測対象です。観測者と観測対象ははっきりと分けられ、その間に明確な境界が存在します。
しかし量子力学の世界では、この明確な区別が必ずしも成り立たないことがあります。観測者が観測対象に影響を与え、その結果として観測対象の状態が変わることがあります。これが「観測者効果」として知られています。
そして、最終観測者の概念は、この「観測者効果」をさらに一歩進めて考えたものです。「最終観測者は、観測を行う主体と観測対象が一体化した状態、つまり観測者と観測対象が分けられない状態」という表現は、観測者自身が観測の結果に影響を与え、その結果観測者自身の状態も変化するということを指しています。
つまり「見る、見られる」という単純な関係ではなく、「見られること」も「観測」に影響を与えており、最終観測者は「ウィグナー」であり「友人」であり「猫」であるという答えと言えるでしょう。観測者同士が「主体」と「対象」を何重にも演じることで「観測者を観測する観測者」のような効果が何度も発揮され、量子状態が確定していくとも言えるでしょう。
この答えは「最終観測者とは神である」というものよりも科学的であり、洞察力に富んだものだと感じられました。
また今回、「シュレディンガーの猫」というテーマに対してChatGPTは「観測の一回性」および「観測を行う主体と観測対象の一体化」という二通りの仮説を立てた形になりますが、そのどちらに対しても十二分に深い回答を返してくれたことにシンプルに驚きを感じました。
まとめ
今回はChatGPTを活用して、「シュレディンガーの猫」というテーマに対して、深堀をして検証を行った結果をご紹介しました。条件を指定することで科学的根拠やロジックを端的に得られるとともに、ChatGPTとしての立場も明確になりました。
また回答に対しての考察を深めていくと、科学的かつ洞察力に富んだ回答を得ることもできた感触があります。ChatGPTを活用した検証として、ぜひ参考にしてください。