近年、デスクトップパソコンの必要性に疑問を投げかける声が増えています。BCNが2023年2月に発表した「若年層のPC所有に関する調査」によるとPCの所有率は「ノートPCのみ」が43.0%、「デスクトップPCのみ」が8.1%であることが判明。さらに両方所有している人は10.8%(合計61.9%)ということが判明しました。
つまり、パソコン所有者の中でも、多くが「ノートパソコンだけを所有している」という状態。なお近年は「スマホしか持っていない」という若者層も増えているため、デスクトップパソコン離れは今後数年かけてより進んでいくかもしれません。
たしかにデスクトップパソコンは、わずかな処理遅延が致命傷となるような「eSports」や膨大なデータを扱う「AI学習」や「ビッグデータ分析」といった用途でなくては必ずしも買うべきものとまでは言えないかもしれません。
今回は「デスクトップパソコン不要説」について、考察していきます。
デスクトップパソコン不要説
「デスクトップパソコンはもう不要では?」と考えられる主な根拠は、以下の4点ほどに分類されます。
・ノートパソコンやスマートフォンの性能の向上
・電気代が高すぎる
・クラウドサービスの普及
・「そもそもパソコンを買わない方がお得」なケースも
ノートパソコンの性能向上やクラウドサービスの普及(※クラウドコンピューティングによって重い処理をクラウドGPUに任せる)といった点は、特に指摘されることが多い内容です。また普段はあまり意識しないかもしれませんが「電気代の高さ」も意外と見逃せないポイントです。
【不要説の根拠1】ノートパソコンやスマートフォンの性能の向上
近年は最新のCPUやGPUを搭載したノートパソコンのラインナップが各メーカーで充実しています。たとえばマウスコンピューターの「G-Tune E5-I9G70BK-A」はCPUにCore i9-14900HXを搭載、GPUにGeForce RTX 4070 Laptop GPUを搭載。
デスクトップパソコンと比較するとGPUがラップトップ仕様という特徴こそありますが、それでもいわゆる「ゲーミングパソコン」として十分な性能ではないでしょうか。
3Dレンダリングなどの高負荷な作業にも十分対応可能。つまり「高性能なパソコン」を求める場合、かつてはデスクトップパソコン一択だったところ「ゲーミングノートパソコン」という新たな選択肢が増えてきている状態です。
なお動画編集や画像編集、イラスト制作といった用途であればパソコンではなくスマホやタブレットで十分なケースも増加しています。たとえばiPhone 15の画素数は4800万画素。十分に高画質のため、動画や写真はiPhoneで撮影してそのままiPhoneで編集した方が効率的な場合もあるでしょう。
【不要説の根拠2】電気代が高すぎる
一定以上の性能があるデスクトップパソコンを選ぶ場合、電気代の高さも見逃せません。
たとえば「ちょっと良いデスクトップパソコン」であれば、消費電力300W程度が発生することがあります。消費電力300WのPCの場合、1kWhあたり31円(公益社団法人全国家庭電気製品公正取引協議会の新電力料金目安単価)とすると、1日8時間の使用で74.4円、1カ月の利用で2,232円になります。意外とパソコン本体の料金に加え、月数千円程度の出費があります。
この電気代は消費電力に比例してより高額になります。ミドルスペックのデスクトップパソコンでも600W程度の消費電力があり、ハイエンドモデルでは800Wを超えることも珍しくなく、電気代はもっと高額に。
つまり本体そのものは消費電力が控えめのノートパソコンを選び、重い処理はクラウドサービス上で遠隔のGPUなどを利用する方が合理的かもしれません。
【不要説の根拠3】クラウドサービスの普及
クラウドサービスが普及したことで、従来なら手元のCPU・GPUを使って行うような作業でも多くのことがクラウド上でできるようになりました。
たとえばGoogleの「Google Colaboratory」はブラウザ上でPythonを実行できるクラウドサービス。機械学習など高負荷な処理をクラウドで実行でき、クラウドGPUも無償で利用可能。なお無償版ではGPUへのアクセスは限定的ですが、Colab Pro(月:1,179円)など有料版ではより高速かつ安定したGPUが使えます。
ゲーミング目的でGPUを使いたい場合は、NVIDIAが提供する「GeForce Now」という選択肢もとても魅力的です。
GeForce Nowは、一言でいうと「ゲーミング用途のクラウドGPU」。ゲームプレイ時に発生する高負荷なデータ処理を全てGeForce Now側で行うのが特徴。つまり本来であれば高価格なゲーミングPCが必要なタイトルでも、GeForce Nowを利用するとスマホやタブレット、安価なノートパソコンでもプレイ可能となります。
こうしたクラウドサービスの普及により、必要最小限のスペックを持つデバイスさえあれば、多くの作業をこなせるようになってきました。
高性能なデスクトップパソコンを購入した場合、
・デバイスそのものへの数十万レベルの初期投資
・月数千円以上の電気代
が発生することを踏まえると、用途によっては「そこそこの性能のノートパソコン」とクラウドサービスの組み合わせで充分かもしれません。
【不要説の根拠4】「そもそもパソコンを買わない方がお得」なケースも
用途によっては「そもそもパソコンを買わない方がお得」なケースもあります。
たとえばゲーミング目的で自作PCを組んだり、BTOパソコンを購入する場合を例にしましょう。そのデバイスに「PlayStation 5相当のスペック」を求める場合、どの程度の予算が必要でしょうか?
パーツの料金は店舗や購入時期、そもそも「自作なのか」「BTOなのか」によっても大きく変わるため、あくまで概算ですが目安としては以下の通りです。
・CPU:約14,700円〜17,080円
・GPU:約23,800円〜40,600円
・メモリ:約6,580円〜9,100円
・ストレージ:約11,200円〜16,800円
・マザーボード:約14,000円〜21,000円
・電源ユニット:約9,800円〜14,000円
・PCケース:約7,000円〜14,000円
・CPUクーラー:約4,200円〜7,000円程度。
つまり約90,000円〜140,000円ほどになります。一方、2023年11月10日発売の新型PS5の価格は約65,000円程度。ちなみに新柄PS5のスペックは以下の表の通りです。
目当てのタイトルが「PS5向け」「Steam向け」の両方にリリースされているならば、PS5を購入する方がコスパが良いかもしれません。
デスクトップパソコンの電気代は高すぎる?試算例
デスクトップパソコンを使う場合、初期投資として「デバイスの購入費用」が発生することに加え、月数千円の電気代が継続的に発生する可能性が高いです。さきほどご紹介した通り、たとえば300WのPCを1日8時間、1か月利用すると電気代は2,232円になります。
とはいえミドルスペック以上のパソコンを使うならば、より電気代は高くなりやすいです。具体的な試算例を見てみましょう。
【600W】ミドルスペックの場合
ミドルスペックのデスクトップパソコンが600Wの消費電力を持つと仮定します。これを1日8時間使用した場合の電気代を計算すると、以下のようになります。
・600W÷1,000×8時間×31円/kWh=148.8円/日
これを1か月(30日)使用すると、
・148.8円×30日=4,464円
となります。年間では約54,312円の電気代がかかる計算です。
【800W】ハイエンドの場合
ハイエンドのデスクトップパソコンが800Wの消費電力を持つと仮定します。これを1日8時間使用した場合の電気代を計算すると、以下のようになります。
・800W÷1000×8時間×31円/kWh=198.4円/日
これを1か月(30日)使用すると、
・198.4円×30日=5,952円
年間では約72,416円の電気代がかかる計算です。
無論これらの試算は、「1日8時間」×「月30日」に渡ってデスクトップパソコンを使用し続けた場合の試算です。仮に1日2時間しかパソコンを使わない場合は、その分、電気代も安くなります。
しかし、毎日短時間しかパソコンを使わないならば「低価格な端末+必要なときだけクラウドサービスを利用する」ので十分かもしれませんし、そもそもノートパソコンやスマホでも十分かもしれません。
・eSports選手を目指しているなどデスクトップパソコンを買うべき理由がある人
か
・性能的にはノートパソコンなどで十分だけど、自作する工程そのものを楽しみたい人
がデスクトップパソコンを買うのに最も適した層の方々と言えるかもしれませんね。
※サムネイル画像(Image:Mojahid Mottakin / Shutterstock.com)