長文を作成する際に、「紙とペン」や「ワープロ」ではなく、スマホやPCを利用する人が増えているのではないでしょうか。たとえば、2019年に芥川賞を受賞した作家・町屋良平さんは、「お風呂でスマホを使って小説を書く」ことで知られています。また、史上最年少(受賞当時23歳)で江戸川乱歩賞を受賞した荒木あかねさんも、スマホで原稿を執筆する小説家として有名です。
このように考えると、「そもそもどこにニーズがあるのか」が見えにくいのが、キングジムの代表的なデバイス「ポメラ」です。
「ポメラ」は、書くことに特化したデジタルメモで、パソコンやスマホとは異なり、インターネット接続ができません。文字入力に特化していることが大きな特徴です。いまもなお新型がリリースされ続けている「ポメラ」、その需要はどこにあるのでしょうか。
デジタルによる文章作成で異端の位置づけを保つ「ポメラ」
「書く」ことに特化したデバイスである「ポメラ」。最新機種DM250の定価は60,280円で、これは安価な新品スマホや、状態の良い中古スマホが十分に購入できる価格帯です。そのため、「デジタル文房具」としてはかなり高価な部類に入ります。少なくとも筆者は、この価格帯で販売されている「執筆専用機」をポメラ以外には知りません。
近年のポメラは「Linux専用機」として、一部のエンジニアの間で安価な改造対象デバイスとして人気を集めています。しかし、ポメラは基本的には「執筆専用機」です。芥川賞や江戸川乱歩賞を受賞した作家が「スマホで書く」時代に、ポメラはどのようなニーズに応えているのでしょうか?
「ポメラ」がテキスト入力端末として人気を維持し続けている理由
まず、「ポメラ」が人気を維持し続けている理由をご紹介します。
端末の起動が極めて早い
こちらは筆者の私物のポメラです。2011年発売の機種DM100ですが、いまでも開けば1秒も掛からずに起動が可能。たとえば起動が早いChromebookでも「10秒」と言われていますが、それに比べても圧倒的に早く、思い立ったらすぐにQWERTYキーボードですぐに書けるという利便性があります。
デフォルトで「ATOK」が搭載されている
ポメラには、高性能な日本語入力システム「ATOK」が標準で搭載されています。ATOKは「一太郎」に搭載されていることでも有名な日本語入力システムで、変換効率が非常に高いのが特徴。
ATOKではたとえば「keiaai」と誤って打ち込んでしまった場合、過去の入力傾向から「掲載」か「経済」か判断してくれます。こういった適切な語への修復機能によって、スピーディーかつ正確で、快適な執筆が可能。ポメラには専用カスタマイズされたATOKが搭載されているため、より快適な文字入力が可能です。
通信機能がないため文書作成に集中しやすい
ポメラの大きな特徴として、インターネット接続機能がないことが挙げられます。一見不便に感じるかもしれませんが、SNSやメールの通知に邪魔されることなく、純粋に文章を書くことに没頭することが可能。「ついついネットサーフィン」といったことも起こらずに済みます。
端末の寿命が極めて長い
先述した通り、筆者がいまだに使っているポメラは2011年発売のもの。購入したのは2014年8月でした。つまり、購入から10年が経ったいまも現役の文章入力デバイスとして利用可能となっています。この寿命の長さはPCやスマホとは比べものにならず、むしろ「文房具」と比較する存在と言えるかもしれません。
ポメラは「ワープロの後継者」?
「10年経っても起動が一秒」かつ「ATOKが搭載されている」なデジタルデバイスである点で、文章作成用途において「ポメラ」と「PC」「スマホ」はまったく持って別物と言えるでしょう。
あえて言うならばポメラは、かつて広く使われていたワープロの現代版とも言える存在です。ちなみにポメラでは「親指シフト」も利用可能。ポメラはワープロの良さを受け継ぎながら、現代の文章作成ツールとして進化を続けているのです。このような特徴が、デジタル時代においてもポメラが根強い人気を維持している理由だと言えるでしょう。
※サムネイル画像は(Image:「株式会社キングジム」公式サイトより引用)