AIに「声優やイラストレーターの許諾なし」で声やイラストを学習させるのはNG?

生成AI技術の大幅な発展により懸念されている、声やイラストなどの無断学習。そもそも、AIはデータの解析やパターン認識、計算、意思決定などを自動化して、人間が行う複雑なタスクを補助・支援する役割を持っています。

一方、生成AIは入力データをもとに新しいコンテンツを生成することが可能です。「生成」能力が強みであり、まったく新しいアイデア、コンテンツを生み出す点で、従来のAIと異なります。

このように生成AIが発展する一方で、声優やイラストレーターなどクリエイティブ制作に携わる方の間から「許諾無しでの声やイラストのAI学習」に対する批判の声が相次いでいます。

では「声優やイラストレーターの許諾なし」でAIに声やイラストを学習させるのは本当にNGなのでしょうか?

山寺宏一さんらが「許諾なしで生成されるAI音声」に対して声明を発表

声優業界では、AIによる音声生成技術の進歩に対して懸念の声が上がっています。2024年10月15日には声優業有志による『NOMORE無断生成AI』キャンペーンが始まり、声優の中尾隆聖さんはじめ、山寺宏一さんらが生成AIへの声の無断使用に反対の意を示しました。

声優にとって、自身の声は重要な資産。それがAIによって無断で複製されることへの不安は大きいでしょう。この問題は、単に技術の進歩だけでなく、アーティストの権利や創作活動の在り方にも深く関わる重要な課題となっています。

「声優やイラストレーターの許諾なし」でAIに声やイラストを学習させるのは本当にNG?

法的に考えた場合、生成AIによる声やイラストの学習そのものが問題となる場合、主に関連する法案は「著作権法」でしょう。そして生成AIと「声優のボイス」「絵描きの方のイラスト」、そして著作権法の関係を考える際には、AI学習と生成の段階を分けて考える必要があります。

(画像は「文化庁」より引用)

「情報解析のための学習」「非享受目的の学習」は合法

著作権法30条の4によると、「情報解析のための学習」や「非享受目的の学習」については、著作権者の許諾を得ずに行うことが認められています。つまり、あくまで情報解析のためであって、著作物を楽しむことを目的としない場合です。たとえば、AIの性能向上や研究目的で行われる学習データの収集・解析は、この範疇に含まれます。

(画像は「文化庁」より引用)

この点は「声優のボイス」「絵描きの方のイラスト」の場合でも同様であり、解析そのものだけが目的であれば、学習そのものは合法となっているのが現状です。

「享受する目的」が併存しているAI学習はNG

一方で、作品を「享受する目的」、つまり作品の本来の価値を楽しむことを目的として含む場合は、許諾なしの利用は認められません。

つまり山寺宏一さんのボイスを「解析する」ことは著作権法第30条の4に基づき、問題ありません。しかしAIが「山寺宏一さん風のボイス」を生成可能となり、なおかつそれが思想または感情の享受を目的とした著作物等に利用可能となることすらも「問題ない」のかは、議論のポイントになり得ます。

もっとも「生成AIそのもの」が「享受を目的としない利用行為」と「享受する目的」が併存しているものと見なせるかは、何とも言えない点です。あくまでそのAIを利用する別の個人・企業がたまたま「享受する目的」を持っている場合があるに過ぎない、とも言えるためです。

いずれにしても「学習」段階における著作権法第30条の4の例外規定については、特に慎重な議論が進んでいる最中であると言えるでしょう。

なお、このほかにも著名人のボイスなどを学習したAIが「販売など営利目的」で使用されている場合は、パブリシティ権の侵害に当たるのではないか?といった論点も別に存在します。

AIを利用した画像生成の著作権侵害は「人間」と同様に判断

続いて「生成」段階についてです。

(画像は「文化庁」より引用)

AIを利用した画像生成に関しては、人間が行う場合と同様の基準で著作権侵害が判断されます。つまり、AIが生成した画像が既存の著作物に類似している場合、それが著作権侵害に当たるかどうかは、人間が描いた場合と同じ基準で判断されることになるということ。そのため、AIによる創作だからといって特別な扱いはされず、既存の著作権法の枠組みの中で評価されるということです。

一方、生成AIは「作風」「画風」を学習したうえで別のアウトプットを出す傾向も強いです。AIの生成物に対して類似性を指摘するのはかなり難しい面があります。

一方で元の創作物がなくてはAIがアウトプットを出せない点で「元のボイスやイラストがAIに学習されていれば、依拠性があるのではないか」という議論が進んでいます。つまり著作権侵害については、類似性ではなく「依拠性」が主な論点になり得ます。

「許諾なしでのAI学習・生成」は「条件付きOK」が現状:今後の議論に注目

総じて、2024年の生成AIの現状については『AI学習段階:「享受する目的」が併存しているAI学習はNG』、『生成段階:人間と同様に「類似性」及び「依拠性」による判断』となります。

学習そのものにおいては、生成AIは「非享受目的」のものであると言えるのかが1つの論点でしょう。研究段階では非享受目的と見なせても、実用段階に入り、そのAIが営利目的で使用され、不特定多数がAIで「山寺宏一さん風のボイス」を生成できるようになったら、それはすでに「享受する目的」を含んでいるのではないか、といった点は議論の余地があるかもしれません。

生成段階においては、残念ながら生成AIのアウトプットに対し、著作権法に基づいて「類似性」を指摘することはかなり難しいでしょう。「画風」「作風」は類似性に含まれないためです。一方で「依拠性」を指摘する余地は大きく、仮に国内で生成AIと著作物を巡る裁判が起きた場合は主要な論点になる可能性があります。

※サムネイル画像(Image:Tada Images / Shutterstock.com)

オトナライフ編集部
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