2021年11月、世界最大のSNSであるFacebookの運営会社が、社名を「Meta(メタ)」に変更しました。仮想現実(VR)へ注力する方向性が垣間見える社名変更であったと言えるでしょう。一方でMetaほどの巨大テックが3年間VRに注力した割には、いまもまだ「VRに触ったことがない」「VRって結局なにが楽しいの?」と疑問を抱いている人は多いのではないでしょうか。
なかなか広がりにくいVR。その反面、VRと並んで新技術として取り上げられがちな「AI」は一般にも普及しつつあります。VR市場は、端的に言って「冷え込んでいる状態」だと言える可能性すらあります。では、実際のところ、VRはどれほど盛り上がっているのでしょうか。
「AI」と明暗が分かれる「VR」「メタバース」
まずIT業界の新たな技術トレンドとして、よく取り上げられる機会が多い分野が「VR」「メタバース」と「AI」です。そしてAIは、CopilotがWindowsに全面的に導入されるなど一気に「身近」な存在となりました。では「AI」と「VR」は、その人気度にどの程度の差があるのでしょうか。
Googleトレンドを用いて、過去5年間の検索における人気度を比較してみましょう。
まず2024年11月現在、過去5年間のGoogleトレンドにおける人気度は以下の通りです。
・VR:12
・AI:43
・メタバース:2
より詳しく見ると、過去5年間のうち2020年頃までは「AI」と「VR」の人気度にあまり大きな差はありません。しかし2021年~2022年頃から、じわじわと「AI」「VR」の人気度に差が生じ始めます。後の生成AIの盛り上がりをいち早く察知していた開発者や技術者の方による検索が「AI」で盛り上がり始めたことは一因でしょう。
加えてこの時期に「メタバース」という言葉が市場で使われるようになったことも要因でしょう。「VR」「メタバース」という2つのKWに人気が分散し、その後、メタバースという言葉の人気は落ち込んでいったことが鮮明です。
また先ほど、VRの人気度を「12」、AIの人気度を「43」としましたがこの数値は5年間の平均です。2024年現在、直近の人気度にはさらに差が生じています。
・VR:13
・AI:97
・メタバース:1
IT業界の技術トレンドとして、センターに躍り出た「AI」に対して「VR」「メタバース」は完全に幻滅期に入り、長い時間が過ぎてしまった感が強いです。
VRヘッドセットの各端末の販売戦略も見直しが続く
VRの魅力は、VR空間への「没入感」。その没入感を体験するためのデバイスが「VRヘッドセット」であり、VRを楽しむにはいわば前提として必要な機器です。ちなみに筆者も「Meta Quest 2」と「PSVR2」を所持していますが、自分以外の周囲の人で、所持しているという人を見たことはありません。実際、VRヘッドセットは市場において苦境に立たされています。
販売開始から即時に生産縮小へと至った「Apple Vision Pro」
Apple Vision Proは2024年2月にアメリカで先行発売後、日本でも6月に発売されたAppleのXRヘッドセットデバイス。発売当初は大きな話題になりましたが、実際には「需要が少なすぎる」を理由に11月以降生産が縮小される可能性が報じられています。
もっとも大きな理由として考えられるのは、最安でも日本円で約60万円という高価格である点。「その価格の割にやることが分からない」という点も課題と考えられるでしょう。
メタは「Meta Quest 3」の値下げを決定
Meta(メタ)は2023年10月に「Meta Quest 3」を発表しましたが、2024年9月に新型の「Quest 3S」を発表し、同時に「Quest 3」の値下げを決定。9万6,800円だった512GBモデルが8万1,400円となりました。そもそも「Quest 3S」が「Quest 3」の廉価版という位置づけにあるため、自然な流れでの値下げですが、購入意欲を喚起する狙いがあると言えるでしょう。
在庫が積み上がる「PSVR2」
PSVR2は2023年2月に発売されたVRヘッドセット。2016年に初代が発売されてから7年が経っていたこともあり、大きな話題にはなりました。しかし発売から1年後の2024年3月にPSVR2の在庫が積み上がっているため、生産が一時休止されていることが報じられることに。価格とソフト不足により、なかなか購入につながらないのが現状のようです。
「数万円のヘッドセットをまず購入しないと魅力が分からない」のはかなりのハードル?
VRには、VRならではの魅力がありますが「数万円~のヘッドセットをまず購入し、ソフトも別に用意し、それらを体験しなくては魅力が分からない」のはかなりのハードルの高さがあるものと見られます。
たとえばVRが冷え込む反面で、AIが2023年以降、急速に普及した背景には斬新さだけでなく「利用のハードルの低さ」が挙げられるでしょう。
たとえば2023年にはChatGPTを誰でもLINE上で簡単に、なおかつ無料で使えるようにした「AIチャットくん」が登場しました。典型的な「利用のハードルが低いAI」です。より高度にAIを使いこなしたい方は、OpenAIのAPIを活用した高度な開発をするのも良いでしょう。
簡単かつ無料で使いたい方は、先に述べた「AIチャットくん」に代表されるサードパーティ製のサービスを使ったり、公式の無料プランでできる範疇で利用するといった利用の柔軟性が生まれています。また、CopilotのWindows搭載によって、今後はOSのデフォルト機能としてAIでできることも増えるでしょう。
一方でVRは数万円のヘッドセットを利用しないと魅力が伝わらないため、ハードルが高く、具体的な活用シーンや利点が、一般消費者にとってまだ明確ではありません。ゲームやエンターテインメント以外の分野での活用が限られていることも、普及を妨げる要因と言えます。今後、技術の進歩と共に新たな活用方法が見出され、より多くの人々にとって身近な存在となることが期待されます。
※サムネイル画像(Image:Boumen Japet / Shutterstock.com)