SIMロックを前提とした大胆な値引きや個性的な商品開発は減少傾向
SIMロックがなくなったことで、キャリアの乗り換えが簡単になったのは一般の消費者にとってメリットです。一方でSIMロックがなくなったことの「デメリット」はないのでしょうか?
まず一つ目のデメリットは「大胆な値引き」の消失です。
先述した通りSIMロックの撤廃(※および総務省による値引き規制)により、通信事業者は端末の大幅な値引きや「0円スマホ」といった戦略が取りづらくなりました。キャリアにとっては1名の契約者が少なくとも2年は自社のキャリアを使ってくれるはずだ、という前提でのキャンペーン戦略を組みづらくなっていると言えるでしょう。よって従来と比較して、大胆な値引きを店頭などで見かける機会も減りました。
あえて言えば各キャリアの「端末購入プログラム」は実質的に50%引き程度で端末を入手できるプログラムですが、実質的なリースであり「購入」と別物である点にも注意が必要です。従来の0円スマホや1円スマホに比べ、リースな上に分かりづらいというのは欠点でしょう。
もうひとつのデメリットとしては、利用者の長期契約を前提とした商品開発が難しくなる点が挙げられます。
従来のガラケーや登場初期のスマートフォンと比較し、いまのスマホは商品ラインナップや機能にあまり個性がないと感じる方もいるのでは?
従来、端末メーカーはキャリアごとに異なる仕様に合わせて「特注品」を作り、SIMロックを前提とした値引きなどを通じて消費者に端末を安く売ってもらうという構図が長く続いていました。新規購入や買い替え需要の底上げが行われるため、安定的な需要が見込めます。
また端末メーカーとキャリアが「特注品」を作る中で、意欲的なデザインや機能に取り組む余地が大きかったとも言えるでしょう。
またiモード(ドコモ)のような意欲的なサービスは、SIMロックを前提としている面も少なからずあります。独自サービスを素早く普及させ、ユーザー一人ひとりに長く使ってもらうためにはSIMロックは適した技術の一つだったと言えるでしょう。
つまりSIMロックは一概に悪いこととは言えず、むしろ「端末を安く売る根拠」になったり、独自サービスの開発の原資になったりしていたものです。SIMロックを廃止したことのメリットは、デメリットを上回っていると言えるのかは議論を続けていく価値があるトピックではないでしょうか。
具体的に「SIMロック」はいつからなくなった?
最後に、参考までにSIMロック廃止の経緯・時系列もご紹介します。
2015年「事業者によるSIMロック解除が義務化」
2015年5月、総務省は通信事業者に対して、一定の条件下でSIMロック解除を義務化。これにより、消費者は端末購入後一定期間経過後にSIMロックを解除できるようになり、他社のSIMカードを利用することが可能となりました。
2021年「新規のスマホ購入時は原則SIMロック解除」
2021年10月1日以降、総務省のガイドラインにより、新規に発売されるスマートフォンは原則としてSIMロックがかかっていない状態で販売されることが義務付けられました。これにより、消費者は購入した端末をどのキャリアでも自由に利用できるようになり、キャリア間の乗り換えが簡単にできるようになりました。
2015年のSIMロック解除の義務化から10年弱が経ちましたが、この約10年は「通信と端末の分離」が一気に進んだ時代だったと言えるのではないでしょうか。
SIMロック禁止は一見するとメリットが目立ちますが、キャリアおよびメーカーが独自サービスや意欲的な製品開発に取り組んだり、大胆な値引きにチャレンジする余地が大きく削られてしまったという側面も否めません。SIMロック禁止にデメリットはなかったのか、という点はもしかしたら今後検証が続けられていくべきポイントかもしれません。