地デジ後の空き周波数を活用する「マルチメディア放送」って結局どうなったの?

2012年に開始した「NOTTV」(※2016年終了)や、2016年4月から本放送が開始された「i-dio」に代表される、新しいテレビ視聴の形として期待された「マルチメディア放送」。地上デジタル放送への移行に伴い、空いた周波数帯を利用する放送サービスとして2010年代に大きな注目を集めました。

しかし前述の通り「NOTTV」は2016年にサービス終了。「i-dio」も2020年3月31日をもってサービスを終了しています。

(画像は「PR TIMES」より引用)

・映像、音声、データを同時に配信することができる
・空き周波数を効率的に利用でき、通信技術のさらなる発展に繋がる取り組みでもある

といったメリットが存在していた「マルチメディア放送」。一方で「i-dio」の終了後は国内でマルチメディア放送に関する新たな、際立った取り組み例も続報としてなかなか聞こえてこないのが現状ではないでしょうか。

「NOTTV」など一定の知名度があるサービスが存在していたにも関わらず、マルチメディア放送は事実上「とん挫した」状況に近しいですが、その要因は何なのでしょうか。改めてみていきましょう。

「マルチメディア放送」とは

地上デジタル放送(地デジ)への移行後、日本では空き周波数が発生し、その有効利用としてマルチメディア放送が計画されました。特にVHF帯がマルチメディア放送に割り当てられ、携帯端末向けのコンテンツ配信やリアルタイム情報提供が実現可能となりました。

使用周波数帯として
・地デジ: UHF帯
・マルチメディア放送: VHF帯

という棲み分けがされた上で、マルチメディア放送には携帯電話向けに、通信との連携を前提したリアルタイム放送(※蓄積型にも対応)が期待されていました。

国内での先進的な事例には、やはり2012年にスタートした「NOTTV」が挙げられます。スマートフォンやタブレット向けの、国内初の本格的なマルチメディア放送であったことが最大の要因。ニッポン放送「オールナイトニッポン」と連携した放送や、報道専門チャンネル「ホウドウキョク」などが提供されており、2010年代当時の配信サービスとしては非常に大きな注目を集めていました。

リアルタイムで視聴できる「リアルタイム視聴」と好きな時間に視聴できる「シフトタイム視聴」の2つの視聴形態も提供しており、いわば「Abema TV」の先駆けのようなスマホ向け放送サービスでした。

しかし、NOTTVは2016年6月30日でサービスを終了。先行きが危ぶまれ始めた2015年頃には、一部報道で「目標の25%しかユーザーが集まっていない」とも報じられました。

「i-dio」も2020年にサービス終了

(画像は「電通」公式サイトより引用)

2016年にサービスを開始した「i-dio」は、NOTTVと入れ替わるようにしてスタートしている点から「NOTTVの後継」とみなされ得る存在でした。

NOTTVと共通している点として、高品質な放送やデータ放送が挙げられる点に加え、i-dioが期待を集めたのは「防災情報の配信」。「V-ALERT」と呼ばれる自治体防災伝達システムの提供が行われ、地域の安全・安心に貢献する新しい放送の形として期待されていました。

しかし、NOTTVと同様にi-dioも苦戦が続き、2020年にサービスを終了。特に国内に目を向けた場合、「NOTTV」「i-dio」の普及でネックとなった点の1つには「チューナー」が挙げられるでしょう。

マルチメディア放送の普及でネックとなった「チューナー」

先述した通り、マルチメディア放送の普及において大きな障壁となったのが、専用のチューナーの問題でした。

マルチメディア放送は、専用のチューナーを内蔵した受信機が必要です。スマートフォンやタブレットでの視聴を想定されていましたが、専用チューナーを内蔵したAndroidスマホは一部の機種のみ。iPhoneでは専用チューナーが内蔵されず、端末単体での視聴は不可でした。つまり、多くのユーザーにとってハードルの高いサービスとなってしまった感が否めません。

マルチメディア放送が「ワンセグ」のような支持を集めなかったのはなぜ?

もっとも2000年代~2010年頃まで遡ると「ワンセグ」によるテレビの視聴はすでに国内でも広がりをみせていました。既存の携帯電話で気軽にワンセグが視聴できた点を踏まえると、マルチメディア放送は「チューナー内蔵のスマートフォン」を市場に十分に浸透させられなかった点で「営業力不足であった」と言えるかもしれません。

もっともワンセグの全盛期と比較し、マルチメディア放送が市場に登場し始めた2010年代はiPhoneが市場で圧倒的に支持を集めていた時代でもあります。iPhoneが人気を集めている時代に「チューナー内蔵スマートフォンを普及させる」ことの難しさに、マルチメディア放送が直面したのは間違いないでしょう。

マルチメディア放送がとん挫したのは実は「日本だけ」ではない

NOTTVやi-dioのサービス終了について言及してしまうと、まるでマルチメディア放送が失敗したのは「日本だけである」と感じる方もいるかもしれません。しかし実際には、マルチメディア放送がとん挫したのは日本だけではありません。たとえばクアルコムが手がけたマルチメディア放送の規格「MediaFLO」はアメリカ国内での展開に加え、日本での実用化を目指して各種展開が行われました。

2009年時点では、MediaFLOはアメリカ国内で「1日約25分から30分弱、1カ月で平均約900分の視聴」を実現しており、2009年時点の一種の「動画配信サービス」としてみれば十分な及第点のサービスに発展していました。

しかし、MediaFLOはKDDI傘下で目指した日本国内でのマルチメディア放送への参入には失敗。2011年にはサービス自体が終了しています。

・空き周波数を活用した携帯電話向けの次世代放送サービス
を夢見る事業者は国内外に多数存在していたものの、2024年現在の視点からみると、実際にユーザーに受け入れられたのは電波を受信するチューナーの有無を問わない「ブラウザ上」「アプリ上」で動作するストリーミングサービスだったと言えるでしょう。

電波の有効活用という点では「マルチメディア放送」の意義は2024年時点の視点からみても、必ずしも薄れてはいません。しかし「スマートフォン向けサービス」として、スマホ側にチューナーを内蔵することを前提にサービスを組み立てるのはやはり難しいでしょう。地デジ移行後の空き周波数の活用は、2010年代に夢見られた「マルチメディア放送」とは別のアイデアが求められているのかもしれません。

オトナライフ編集部
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