Netflixに代表される動画サブスクといえば「映画」「ドラマ」の印象が強いもの。しかしここ最近、Netflixでは格闘技中継など「ライブ」モノが増えています。その代表例が、Netflixが中継したジェイク・ポール対マイク・タイソン戦。この2人による試合は記録的な視聴者数を達成しています。
「映画」「ドラマ」でサブスクが競う時代は終わり、新たに「ライブ」時代に各サービスは突入していくのでしょうか? 具体的に見ていきましょう。
Netflixのジェイク・ポール対マイク・タイソン戦は視聴者1億人越え
Netflixで2024年11月16日に独占配信されたのが、YouTuberとして有名なジェイク・ポールと、ボクシング界のレジェンドであるマイク・タイソンのボクシングマッチ。タイソンにとっては58歳にして、19年ぶりの公式戦復帰でした。
対戦相手のジェイク・ポールも世界的なYouTuberであると同時にプロボクサーであり、ボクシング界の新旧がぶつかり合うマッチとなりました。
Netflixはこの中継について、世界中で1億800万人が視聴したと発表。さらにこの試合後、Netflixの株価が2.8%も上昇したと報じられており、試合内容そのものへの賛否はありながら、中継としては「大成功」だったと言えるのではないでしょうか。
スポーツ中継参入から見るNetflixの戦略変更
今回のタイソン戦はNetflixに加え、興行をモスト・バリュアブル・プロモーション(MVP)社がサポートしています。このMVP社はジェイク・ポールが設立したプロモーション会社です。
そしてファイトマネーの最低額はタイソンが2000万ドル(約30億8000万円)、ポールが4000万ドル(約61億7000万円)とも言われています。このファイトマネーはNetflixにとっても決して安価なものではないでしょう。
これほどの予算をつぎ込んでジェイク・ポール対マイク・タイソン戦を中継した裏には、Netflixの「スポーツ中継」への本格参入の意図が見え隠れします。
広告付きの低価格料金プランの「武器」としてのスポーツ
Netflixがスポーツ中継に参入した背景には、Netflixにとって肝いりの料金プランである「広告付きの低価格料金プラン」を成功させる狙いがあると考えられます。
2024年11月時点でNetflixの広告事業は2周年を迎えており、同社の広告プランの月間アクティブユーザーは全世界で7,000万人。そしてNetflixによると、広告プランを提供する国での新規登録者の半数以上は広告付きプランを選択しているとのこと。
つまりNetflixにとって広告は集客の中心であると同時に、巨大な収益源であると言えます。一方で広告事業には法人向けビジネスとしての一面があり、視聴者数の拡大もまたNetflixにとって急務です。
そこで参入対象となったのがリアルタイムで大規模な視聴者数が獲得できる「スポーツ中継」であり、ポールとタイソンのマッチはその試金石であったと言えるでしょう。
NFLのクリスマス中継が「本命」?
Netflixにとってジェイク・ポール対マイク・タイソン戦は「スポーツ参入」の皮切りであると考えられます。たとえば同社はアメリカンフットボールリーグのNFLと3シーズンに渡る契約を締結済みであり、特に視聴者数が伸びるNFLのクリスマス中継はいわば「本命」だと見られます。
たとえば2024年12月25日に行われるNFLのテキサンズ対レイブンズ戦の中継を行うのは、Netflixです。そのハーフタイムには歌手のビヨンセさんがパフォーマンスすることも、先だって発表されています。
アメリカではクリスマスに家族で視聴するイベントとして、NFLは定番です。Netflixにとっては安価な広告付きプランに加入する世帯の増加や、広告の表示回数の増加などが期待できるでしょう。
Netflix以外の動画サブスクでもPPVや配信による中継が増加
なおこうした動きはNetflixだけに見られるものではありません。たとえば国内に目を向けても、大型の格闘技イベントの中継やPPVを動画サブスクが手掛けるケースが増加しています。その一例にはABEMAの『THE MATCH』などが挙げられます。
ABEMA『THE MATCH』(那須川天心 対 武尊戦)
たとえばABEMAでは2022年6月19日に独占生中継した『Yogibo presents THE MATCH 2022』が開局史上最高視聴者数を記録。目玉となったのは那須川天心対武尊という、日本格闘技界で長年待望されていたカード。試合視聴チケットの券売数は50万を突破して話題になりました。
Amazonプライムビデオ『Prime Video Presents Live Boxing 9』(那須川天心)
Amazonプライムビデオも『Prime Video Presents Live Boxing』シリーズを配信。2024年10月には『Prime Video Boxing 10』を放映しました。先に取り上げた『THE MATCH』でも注目を集めた那須川天心のボクシングの試合を中継し、格闘技ファンを中心に話題になっています。
動画サブスクの参入により「スポーツ中継」の放映権料が高騰傾向
このように国内外で動画サブスクリプションサービスがスポーツ中継に参入するケースが相次いでおり、中継の放映権料が高騰する傾向にあります。従来のテレビ局に加えて、NetflixやABEMA、Amazonなどの大手動画配信サービスが競合に加わったことで、放映権の獲得競争が激化。
この結果、人気スポーツイベントの放映権料は年々上昇しており、従来放映を行っていたテレビ局が高額化を理由に放映権を獲得できないケースも生じています。たとえば2022年のFIFAワールドカップは放映権料が一説には「200億円」とも言われ、なおかつ大会の開催地であるカタールと日本の時差を考えると「深夜の中継」が増えることが見込まれました。そのため放映権に関する交渉はなかなかまとまらず、視聴者にとっては「大会が見られるのか」が危ぶまれるような状態でした。
最終的にはABEMAが大規模な投資を行って放映権を取得し、ABEMAでの中継に加え、地上波の各局にも放映権を卸すことで、視聴者は試合を見ることができました。
とはいえ上記のエピソードは、2022年の時点で、少なくともサッカーの放映権料は「地上波の各局が獲得を断念する可能性がある」レベルで高騰していることがよくわかるものです。
NetflixがボクシングやNFLの中継に参入することで、サッカー以外の競技の放映権料高騰も今後顕著になる可能性があるかもしれません。
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