病院も医師も足りない!?首都圏の健康事情を探る!

健康の基準を示すもっともわかりやすい基準が平均寿命だ。首都圏と聞くと、どうしても都会のイメージが先行して、寿命が短かそうだと思われがちだ。しかし、総務省が公表している数値はあながちそうでもなそうだ。
首都圏でもっとも長生きなのは神奈川県だ。男性で80・25歳、女性で80・63歳で、とくに男性は全国5位という高水準となっている。男女ともに全国トップの長野県と比較してみても、男女ともに1歳以内しか差はない。
また、今後どのくらい生きられるかの期待値をまとめた65歳以上の平均余命も男性19・06年、女性24・03年と首都圏でトップ。神奈川県は首都圏における長寿県と呼べるだろう。
その一方で、埼玉県の平均寿命は短い。とくに問題なのは女性で、平均寿命は全国42位の85・88歳、65歳以上の平均余命は23・42歳で全国45位に沈んでいるのだ。なぜ埼玉県の女性だけがこれほど長生きできないかの原因は特に解明されていない。すでに配信済の→(首都圏所得格差 神奈川県は世帯主の収入に頼る傾向が大)所得問題でも触れたように、埼玉県は共働き世帯が多い。女性も男性と同様に働いており、そのぶんだけ健康に悪影響を及ぼしている可能性も否定できないだろう。
しかし、埼玉県では女性ほどではないにしても男性も平均寿命が短くなっている。そのもっとも大きな要因は深刻な医師不足によるところが大きいのではないだろうか。

深刻な医師不足にあえぐ埼玉県

(Image:Shutterstock.com)

 埼玉県は決定的に医療が足らない。人口10万人当たりの医師数は、わずか152・8人で全国最低だ。それだけではなく、人口10万人当たりの一般診療所数も介護療養型医療施設数も全国最低の数値を叩きだしている。地元では長らく解決の道を探っているが、いまだ歯止めがかかっていない。
 こうした危機的状況を打破するために、埼玉県は埼玉医師会と協力して平成25(2013年)に埼玉県総合医局機構を発足させた。この埼玉県総合医局機構が改革の柱に据えているのが次の4つである。

 

1.医学生への奨学金貸与(一定条件で返済が免除される)
2.埼玉県内で臨床研修や後期研修を受ける研修医に対する資金貸与
3.埼玉県総合医局機構の医師バンクサイトで、医師に無料で病院を紹介
4.ベテラン医師を指導医として県内の病院に紹介

 

 要するに資金援助と医師のための求人サイトの立ち上げである。多少の成果は出ているようだが、残念ながら医師不足の抜本的な解決にはつながっていない。とくに救急患者に関しては専門医不足により、東京都の病院への転送を余儀なくされることもあるという。

医師不足は千葉県もヤバい!

 埼玉県と同様に千葉県の医療も崩壊寸前だ。人口10万人当たりの医師数は182・9人で全国45位、一般病院数は全国43位、一般診療所数も全国45位とどれも最低ランクの数値である。
 病院と医師不足の影響であろう。千葉県では、病気による死亡率が首都圏ではトップクラス。生活習慣病、高血圧性疾患、心疾患、脳血管疾患、妊娠・分娩及び産じょく(いずれも人口10万人当たりの死亡者数)の項目において首都圏でもっとも人数が多い。とくに深刻なのは赤ちゃんに対する医療体制である。新生児の死亡率1・1%の数値は全国で9番目に悪い。また、乳児死亡率も2・1%で、全国で12番目に悪い。当然首都圏ではトップの数値で、医師不足が叫ばれる埼玉県よりも深刻なのだ。千葉県の新生児医療は課題だらけといわざるを得ない。
 さらに、千葉県内でもなかなか診療を受けられない地域があり、格差が生じている。そのエリアが香取地区や山武地区といった県東部。総合病院の閉鎖などにより、医師数が減少。地元住民によれば「救急車の到着までに30分かかることもある」という。
 こうした事態を受けて、県は「医師不足病院医師派遣促進事業」という早口言葉のような対策事業を行っている。これは簡単に言ってしまえば、医師の人材派遣。県内外から医師を派遣してもらうことで、県は月当たり上限125万円の助成金を支払うという仕組みで、すでに実施されている。
 改善の追い風になりそうなのが、国際医療福祉大学の医学部新設。何かと話題の国家戦略特別区域であることが幸いした。2020年には附属病院も開院する予定で医師の増加に期待が寄せられている。

介護保険料がもっとも安い埼玉県

 高齢者支援として設けられている介護保険制度。その財源は、税金と利用料が折半してまかなっている。この介護保険料は40歳以上の国民が死ぬまで支払うことになるが、その金額は各市区町村で決められている。
 まず介護サービス給付額の見込みに基づいて3年後までの予算を決定。その予算総額の21%が第1号被保険者の保険料となる。この総保険料を、各市区町村で管理している65歳以上の第1号被保険者の総数で割って年間の介護保険料基準額となる。つまり、介護サービスの利用状況を各自治体がどのように見込むかによって料金が変動するのだ。
各自治体などの財源が安定していれば、安くなる傾向がある。
 この介護保険料基準額が全国でもっとも低いのが埼玉県だ。県平均で4835円で、全国平均の5514円を約700円も下回っている。ちなみに基準額の伸び率も7%台で全国平均よりも低くなっている。
首都圏では、埼玉県に次ぐのが千葉県の4958円。前回の改定の4423円から実に12・1%の伸び率だった。ほかの東京都は5538円、神奈川県は5465円。首都圏では比較的安い金額に抑えられている。ちなみに全国でもっとも高いのは6267円の沖縄県。これは改定前と同額だ。
 また、介護において気になるのは受け入れ施設の定員。東京都は介護福祉施設数が全国最多でありながら定員数は全国最少というめずらしい現象が起きている。人口増加が進んでいることと、建設用地の確保が難しいこともあり、介護施設を利用したくても利用できない人が潜在的に多いと考えられる。

自殺死亡率が高いのは……

 何かとストレスの多い東京都がもっとも多そうなイメージがあるが、人口10万人当たりの自殺死亡率で見ると、意外にも全国で33位。神奈川県に至っては全国38位、埼玉県も全国29位と首都圏は意外にも低くなっている。そのなかで千葉県だけが全国17位と比較的高い割合で自殺で亡くなっている。全国21大都市のなかでは、ワースト3位という結果になってしまった。
 こうした傾向を受けて、千葉県では自殺防止について細かな統計をとって積極的に対策を行おうとしている。男女年齢別では、男性は35から64歳がもっとも多く、女性は60から70歳代がもっとも多い。気になる自殺の動機は、健康問題67・6%、家庭問題、経済・生活問題23・6%、勤務問題12・2%だった。自殺の多い地域は、やはり県内の都市部が上位。上位5都市は千葉市、松戸市、印旛郡、船橋市、市川市の順であった。
 しかし、このような統計をとっていても、なぜ首都圏で千葉県だけが突出しているのか行政側は頭を悩ませているようだ。県庁内の自殺対策班もあれこれと手を打ってはいるが、全国的に高水準で推移している状況は変わっていない。
 自殺とストレス過多に関連性が高いのは想像に難くない。たしかに難病を抱えていつ死ぬかもわからないという状況になったら自殺することもありえるだろう。これについては、千葉県の医療問題と関連しているとも考えられるが、埼玉県の自殺死亡率が低いことを考慮すると、要因とはなっても千葉県だけが高い理由にはならない。
 より多角的な視点による対策が必要であろう。

引用元:首都圏格差 首都圏生活研究会 (著)(三交社刊)

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